解凍した魚でも鮮魚? “海なし県”に寿司屋が多い謎。あまり聞けない「食のウラ事情」

食・料理

公開日:2018/7/3

『ヨソでは聞けない話「食べ物」のウラ』(〈秘〉情報取材班/青春出版社)

 私たちが生きていく上で絶対に欠かすことのできない「食事」。人間の体を作り上げ、心を養い、明日の活力になる。人類が繁栄し続ける限り、食文化もまた発展を続けるだろう。

 そのため食文化は金になる。金になるということは、私たちの知らない裏事情が生まれることもある。食べるという行為は、安全(もしくは不安なもの)を口にすることでもあるので、裏事情が存在するならばぜひ知りたいところだ。

『ヨソでは聞けない話「食べ物」のウラ』(〈秘〉情報取材班/青春出版社)は、私たちの知らない「食に関するウラ話」をごっそりまとめた1冊。雑学になるものからショッキングな内容まで、80以上ものネタを集めている。この記事ではその中から3つだけご紹介しよう。

advertisement

■賞味期限に隠された食品メーカーの努力

 その食品が美味しく食べられる期限を示す「賞味期限」。この期限を過ぎてから口にしても問題ないが、わざわざ過ぎた食品を買う消費者は誰もいない。

 そのため多くの小売店では「3分の1ルール」を設けている。製造日から賞味期限までの最初の3分の1の期間内の商品しか受け付けないのだ。流通の遅れなどで最初の3分の1の期間内に納品されない場合、小売店はメーカーに返品してしまう。……うーん、シビアだなぁ。

 このルールを克服するべく、各メーカーは少しでも賞味期限が伸びるよう努力している。その努力の1つに「酸素」がある。食べ物は酸化すると途端に風味が落ちるので、いかに食品から酸素を取り除くかが、賞味期限「延長」のカギを握っている。

 たとえばマヨネーズは、卵・酢・植物油から作られているのだが、植物油は水の5倍の酸素を含んでいるので酸化が早い。そこであるマヨネーズメーカーは、植物油に窒素を吹き込んで酸素をできるだけ取り除く製法を開発した。この結果、従来の7ヶ月から10ヶ月にまで賞味期限が伸びた。

 このような企業努力は、どの食品メーカーも行っている。普段から何気なく目にしている賞味期限だが、その数字の裏には食品メーカーのたゆまぬ努力が隠されているのだ。

■解凍した魚でも「鮮魚」と名乗れるのはなぜ?

 スーパーやレストランなどでよく目にする「鮮魚」。辞書でその意味を引くと「食用にする新しい魚。生きのよい魚」とある。しかしこの鮮魚の中には、解凍した魚が使われている場合がある。……少々ショッキングな事実だが、これは問題のない行為だ。消費者庁では、解凍してもその魚が鮮度を保っていれば「鮮魚」と表示しても構わない、という取り決めをしている。

 では、私たちがイメージするような「鮮魚」は何なのかといえば、「活魚」や「生鮮魚」がそれにあたる。

 活魚とは、水槽やいけすで泳ぐ、生きた魚のことだ。一方、生鮮魚は、鮮魚の中でもとりわけ鮮度の良いものを指している。具体的には、死後硬直が起こる寸前から、死後硬直が終わり、解硬する(硬直がとける)直前までを指す。刺身用として販売されているものがまさに「生鮮魚」だ。

 魚の鮮度の違いなんて別に知らなくても生きていけるが、その違いが分かるとスーパーやレストランを訪れたとき、少しだけ鼻が高くなる。本書ではそんな知識も紹介している。

■酒蔵に絶対に持ち込んではいけない食品とは?

 米を発酵させて造るアルコール飲料「日本酒」。その酒造りでは、最高責任者「杜氏」の指導の下、職人たちの手で約半年かけて製造される。

 実はその期間中、職人たちが絶対に食べないとされる食べ物がある。なんと、納豆だ。納豆は、大豆を納豆菌で発酵させた食品であるため、同じ発酵食品の日本酒に悪影響を及ぼすかもしれないのだ。

 たとえば、朝食で納豆を食べてしまった罪な職人がいたとしよう。その職人の手や髪に納豆菌がついて、そこから酒造り用の麹に混入すると、麹が納豆のようにネバネバになってしまう。

「そんな大げさなぁ」と思うかもしれないが、納豆菌は非常に強力なので、少量でも麹菌に打ち勝ってしまう。さらに麹菌と納豆菌は、繁殖しやすい温度や湿度がほぼ一緒なので、酒造りは納豆菌にとって最高の環境だ。ひとたび納豆菌で汚染されてしまうと、麹づくりを行う麹室を丸ごと殺菌しなければならない。……バイオテロみたいな話だ。

 とりわけ昔は、納豆の製造で野生の納豆菌を使っていたので、繁殖力が超絶強かった。歯みがきや手洗い程度では落ちなかったのだ。納豆菌、恐るべし。

 現在は純粋培養された、野生のものよりは弱い納豆菌を使用していることが多いので、歯みがきや手洗いで落とすことができる。それでも多くの酒蔵では今でも大事をとって納豆を禁止しているそうだ。

■本書に載せられた食卓をめぐる裏ネタのフルコース

 ちなみに本書ではこの他にもこんなネタも紹介されている。

・和牛の世界でも“少子化”が始まった理由とは?
・暑さに強い夏野菜を夏場でもハウス栽培するのはなぜ?
・「海なし県」に寿司屋が多い謎
・イチゴの旬が春から冬に変わった裏事情
・カボチャの根でスイカが育つフシギ
・お客の知らない原価率が高いメニューの法則とは?
・そうめんが西日本で広まり、東日本で広まらなかったワケ

 どうだ、このボリュームは。食卓をめぐる裏ネタのフルコースといわんばかりだ。たった1冊で、お腹いっぱいになるまで裏事情を味わい尽くすことができる。ちなみに私は小食なので、本書を2日間に分けて読み進めた(ごちそうさまでした)。

 食事は、私たちの生活で1日3回訪れる「楽しみ」だ。本書は、その時間をもっと楽しく安全にするために、きっと役に立つはずだ。どんな人にもお口に合うネタが絶対に紹介されている。ぜひ美味しくいただいてほしい。

文=いのうえゆきひろ