やさぐれ女子イブと母性のかたまりアダムの凸凹ギャグ漫画『アダムとイブの楽園追放されたけど…』

マンガ

公開日:2018/7/3

『アダムとイブの楽園追放されたけど…』1巻(宮崎夏次系/講談社)

 アダムとイブが禁断の実を食べて楽園から追放される――。この誰もが知っている聖書の一節のその後を、強烈なギャグ漫画に仕上げたのが『アダムとイブの楽園追放されたけど…』1巻(宮崎夏次系/講談社)だ。アダムとイブの絶妙なコンビが繰り広げるのは、宗教コンプライアンスぎりぎり(アウト?)のストーリー。さらに続々と登場する濃いキャラクターが、物語をおかしな方向へと導いていく。そして宮崎夏次系氏らしさとも言える絶妙な「深み」が加わり、他とは一味も二味も違うギャグ漫画に仕上がっている。

 穏やかでド天然な性格のアダムと、サングラスをかけたやさぐれ女子イブ。楽園から追放された2人は、突然産まれた子供カインと3人で暮らしはじめる。母性のかけらもないイブは、カインの育て方がわからない。その反面、ほっこり系男子のアダムは母性の塊。出ない乳を無理やり飲ませようとしたり、布オムツをせっせと作ったりする。

イブ「ちょ…縫いすぎじゃない?」

アダム「いやいや、大は小カネだろ。排便は新生児にとって重要な健康のバロメーターになる。俺はこの子のウンコを見るのが楽しみすぎてすでに寝不足だよ。ごらん、こっちはギャザーをつけてみました」

イブ「それ、私の大切なストールの布‼︎」

 アダムを前にしてイブは「私にできることなんにもない」と悩み出す。そのイブの繊細な思いに、楽園に暮らす神様や“つい友”(追放友達)のヘビが「赤ん坊にお前いらねえじゃん」と火に油を注ぐ。さらにはアダムの黒歴史時代に仲良くしていた堕天使ルシファーも現れて――? 奇想天外のキャラクターの登場に、物語は先の読めない方向へと転がっていく。

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 全体的にギャグ要素満載なのだが、見逃してはならないのがイブの母性の変化である。母乳をあげようとしてみたり、カインの誕生日にぐちゃぐちゃのケーキを作ってみたりと、少しずつ母親になろうとするイブ。サングラスをかけているから表情は読み取りづらいが、少しずつカインに向ける表情が温かみを帯びている。本書に同時収録されている読み切り『オカリちゃんちのお兄ちゃん』をはじめ宮崎夏次系氏の作品は、シュールで繊細な画風に油断した読者の心の隙間をぬって、ほろりとくる展開を差し込んでくる。それが癖になってしまうのだ。

 1巻の最後では、なぜかカインの弟が青年に成長した「阿部」として登場し、神様に「る」(つまりフルネームは「阿部る」)と名付けられた。ギャグのジェットコースターがどこまで暴走するのか、またイブの心がどのように変化していくのか、これからも目が離せない。

文=寺田真央