矢沢あい『Paradise Kiss』この夏、もういちど読みたい恋愛マンガ

マンガ

公開日:2018/7/6

 電子書籍配信サービス「ブックパス」では現在、名作恋愛マンガの読み放題企画を開催中。初回を飾るのは、少女マンガ界のカリスマ的存在、矢沢あいの『Paradise Kiss』。ファッション好きの女子たちの胸を震わせた、その魅力を再確認!

『Paradise Kiss』(1巻)

『Paradise Kiss』(1〜5)
矢沢あい 祥伝社
進学校に通う受験生の早坂紫は、勉強ばかりする毎日に疑問を感じつつあった。そんなある日、街中で声をかけられて矢澤芸術学院の学園祭でショーモデルを務めることになる。小泉譲二ことジョージをはじめファッション業界という夢に向かって突き進む〈Paradise Kiss〉のメンバーと交流するうち、紫の中で何かが目覚めてゆく――。

 1999年からファッション雑誌『Zipper』で連載され、単行本全5巻の累計発行部数は500万部を突破。日本国内のみならず海外でも高い評価を得て、TVアニメ化に加えて実写映画化もされている。『NANA』と並ぶ著者の代表作品だ。

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 都心の進学校に通う高校3年生の早坂紫は、アトリエ〈Paradise Kiss〉に集う矢澤芸術学院の生徒たちから学園祭でのファッションショーのモデルを頼まれる。最初は気乗りしなかったものの、個性豊かなパラキスメンバーとの交流を通して紫は自分の道を模索しはじめ、プロのモデルを目指すように。そしてリーダー格のジョージと激しくもせつない恋に落ちる──。

 インディーズブランド全盛期の時代性も相まって、掲載誌の『Zipper』は連載時に最高部数35万部を記録。矢澤芸術学院を舞台にした著者の過去作『ご近所物語』の十数年後の世界という設定で、ひとりの少女の恋愛と成長をスタイリッシュな描線と繊細なストーリーで魅せてゆく。

『Paradise Kiss』
(c)矢沢漫画制作所/祥伝社フィールコミックス

 平凡な女子高生・紫と、百戦錬磨のモテ男ジョージの組み合わせは、少女マンガのセオリーである“ボーイ・ミーツ・ガール”に倣って形容するならば、さながら“ガール・ミーツ・プレイボーイ”というところ。

 将来への夢も希望も持てず、大学進学を漠然とした目標にすえして生きてきた紫は、ファッションデザイナーになるという明確な目的をもって生きているジョージに強烈に惹かれてしまう。

 しかし二人の気性は水と油で、恋人同士となっても心の平安は訪れない。普通の女の子である紫は、愛する男性に守られたいし甘えたい。対して自分にも他人にも厳しいジョージは、そんな紫をけっして甘やかしてはくれない。優しくしたかと思えば突き放し、また優しくしては突き放す。

「主体性のない女は好きじゃない」

「(おまえは)結局誰かが敷いてくれたレールの上で手を引いてもらわないと安心出来ないタチなんだよな」

 ジョージが紫にぶつける言葉は辛らつで、しかも的確だ。

 芸術家であるジョージには自分のミューズ(女神)が必要で、紫の中にそれを見い出した。だから彼女を厳しく鍛えた。外見だけでなく精神も美しい、自らの足で立つ女性になってほしくて。

 矢沢あい作品に共通するテーマである「女の子の成長と自立」が、この作品ではとりわけ明確に打ち出されている。それまで活動していた少女マンガ雑誌から、ストリート系ファッション誌へ場を移したことによって表現も先鋭化した。性描写を含む恋愛模様やキャラクターたちの抱える葛藤、夢や進路の悩み、成功と失敗といった要素がこれまでになくヘヴィ、かつリアルに展開されてゆく。

 ジョージに指摘されるとおり、親の敷いたレールの上を歩いてきた紫が、自分が本当にしたいこと、やりたいことを見つけようと苦闘する姿。一流デザイナーである姉に、憧れと劣等感を同時に抱く実和子。幼なじみからそのまま恋人同士となった実和子との関係に、自信が持てない嵐。男性である自らの性別に違和感がありながらも、自分らしく在ろうとするイザベラ。

 パラキスの面々はそれぞれに切実な問題を抱えていて、紫の目には自信たっぷりに映るジョージですら、職業デザイナーとして果たして自分は成功できるかどうかという不安を抱いている。

 著者独特の華麗な筆致で紡がれるファッションやメイクで彩られた登場人物たちもまた、私たち読者と同じ普遍的でベタな、それゆえに胸を打つ壁に直面し、人生と格闘している。だからこそ本作は時間が経っても色あせない。今の時代の女の子が読んでも、大人になったかつての読者が再読しても、たまらなく共感するのだろう。

 ジョージとの恋愛初期の頃は“ちゃんと責任取ってリードしてパラダイスへ連れてってね”と思っていた紫は、ファッションショーの本番では“大丈夫、任せて。この会場の全ての人を、あたしが楽園(パラダイス)に連れて行く”と、心の中で彼に語りかける。そして物語の終盤では“パラダイスは自分の足で目指すよ”とジョージに、そして自分自身に宣言するに至っている。

 パラダイスは連れて行ってもらうものではなくて、自分の足で目指すもの。

 少女マンガのセオリーに則った始まり方をしたこの物語は、少女マンガのエンディングとしては前代未聞、衝撃的ともいえる終わり方を迎える。

 紫はジョージとの嵐のような恋愛で傷つき、鍛えられ、そして強くなる。少女から大人の女性へと変貌し、自分の人生を獲得する。恋を通して成長し、自立する女の子を一貫して描き続けてきた著者の集大成ともいえる作品だ。

「ブックパス」の「読み放題プラン」(月額562円・税別)では、7月31日まで『Paradise Kiss』全巻を読めるうえ、初回の方に限って30日間の無料お試し入会もできる。詳しくは特設サイトにて。

 スタイリッシュなアートファッションコミックの金字塔にして、少女マンガ界のカリスマ・矢沢あいの代表作に、この夏、あらためてめて胸をときめかせてみたい。

文=皆川ちか

 

担当編集は語る!『パラキス』担当編集者の田辺さんに当時のエピソードを直撃!
矢沢先生が『Zipper』の読者でいらしたことからご縁ができて連載が始まりました。話の方向性に誤りがないよう、プチメゾンのブランドやモデル事務所を一緒に取材してストーリーを構成していきました。各登場人物が夢と現実の間で揺れる感情がとてもリアルで、多くの共感を呼んだことが大ヒットにつながったのだと思います。ファッション業界という一見特殊な世界を舞台にしていますが、彼らの悩みや葛藤はものすごく真っ当で、誰でも経験するもの。そんな普遍的な感情に読者の方がご自身の思いを重ね合わせてくださったら幸いです。
(祥伝社・田辺真由美さん)

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(c)2011「パラダイス・キス」製作委員会

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