狙いすぎて興ざめ。企業が「インスタずれ」で炎上するワケ

ビジネス

公開日:2018/7/6

 2018年4月、栃木県・りんどう湖レイクビューに現れた巨大なピンク色のアヒル「ピンキーダック」。高さ20メートルのアヒルは「インスタ映え」を狙ったとのことで、NHKにも取り上げられた。一方、ネットでは「オランダの芸術家フォロレンティン・ホフマンが制作したラバーダックのパクりでは?」との厳しい指摘も飛び交った。17年の流行語大賞にも選ばれた「インスタ映え」が世の中を席巻している。ブームの担い手は20〜30代の女性だ。

 ビジネス上の目的で、「シェア」や「いいね」を狙うのはいい。しかし、安易に「インスタ映え」ブームに乗っかろうとする企業を見て、「どこか違うかも」「何かズレてる…」と違和感を覚えることも多い。今回はこの「インスタずれ」について、マーケティング視点で考えてみたい。

■「AIDMA」はもう時代遅れ?

 マーケティングの世界は、消費者が商品を買うまでの心理プロセスをモデル化してきた。有名なのは昔からある「AIDMA」(アイドマ)という、大量消費時代のマスマーケティングモデルだ。広告を見て買う人たちの購買行動を表している。

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Attention (商品を知る)→Interest (興味を持つ)→Desire (欲しくなる)→Memory (記憶する)→Action (買う)

 要は、「たくさんの人に知らしめ、興味を持たせて、欲望を刺激し、覚えてもらい、買っていただく」ということである。

 その後、インターネット検索の浸透にともない、「AISAS」(アイサス)モデルが生み出された。

Attention (商品を知る)→ Interest (興味を持つ)→Search (検索する) → Action (買う)→ Share (広める)

 こちらは、「興味を持ったら、即検索、速攻ポチり、良かったら仲間に拡散する」ということである。

 SNSの世界では、狭いスマホの画面の中に一方通行で膨大な情報が流れ込む。ユーザーは必ずしも検索しない。そこで新たに「SIPS」(シップス)というモデルが考えられた。

Sympathize (共感する) → Identify (自分に有益か判断する) → Participate (「いいね」。あるいはポチる) →Share & Spread (仲間と共有する)

 企業の「インスタずれ」は、SNS時代のSIPSモデルで考えるべきところをマスマーケティング時代のAIDMAモデルで考えてしまったために起こっている。

■感動を希釈する「インスタずれ」

 つまり、「たくさんの人に興味を持って覚えてもらおう」としているのだ。「目立てば勝ち」というわけだ。しかし現代人は、情報の洪水の中で溺れないよう「スルー力」を身につけている。そんな中、「目立つ」だけでは、「こんなのあるんだ(また今度でいいや)」となる。無数にある「ちょっと面白いモノ」に埋もれ、すぐ忘れ去られてしまう。

「インスタ映えで目立てばいい」というスタンスの企業は流行りの「インスタ映え」を探し、似たようなことをやる。しかし、模倣から感動は生まれない。感動が「希釈」されるだけだ。消費者は賢明だ。模倣元のオリジナルをすぐに見つけ出し、企業の思惑を簡単に見抜いてしまうのである。

■「ナショジオ」の本気度

 ちなみに、私がインスタグラムでよく見るのは、ナショナルジオグラフィックの公式アカウントだ。「写真って、こんなに力があるんだ!」と感動する投稿ばかり。「ナショナルジオグラフィックって見たことない」という人は、ぜひここをクリックしてほしい。一瞬で心を奪われるはずだ。ナショナルジオグラフィックは写真の力を熟知し、インスタグラムを徹底的に活用している。

 ビジュアルで自分を表現できるインスタグラムは、感動を伝える極めて強力なツールだ。人は「自分の感動を、他の人に伝えたい」という強い欲求を持っている。インスタグラムは、人々を熱狂させる大きな潜在力を持っている。「インスタずれ」で終わっては残念だ。

 企業なら、「インスタ映えで何を狙うか」を考えたいところ。誰に、何を伝えたいのか? その人たちに、どのような感動をしてほしいのか? いかに「行ってみたい!」「体験してみたい!」と思ってもらうか? そしていかに感動を増幅させるか? このときに、SIPSモデルを当てはめて考えると、整理できるはずだ。

 ターゲットのことを考え抜き、その人たちに企業や商品の世界観を、ビジュアルで見せることが大切なのだ。

文=citrus マーケティング戦略コンサルタント 永井孝尚