FBI人質交渉人が直伝!「必ずイエスと言わせる」逆転の交渉術とは

ビジネス

2018/7/4

『逆転交渉術 まずは「ノー」を引き出せ』(クリス・ヴォス、タール・ラズ:著、佐藤 桂:訳/早川書房)

「どうしても、この商談を成功させたい!」そう考えたとき、あなたはどんなことに気を配るだろうか。目の前の相手に好かれるよう、好意を持たれやすい話し方やボディランゲージを多用する方もいるかもしれないが、そうするとかえって相手に有利な流れで商談がまとまってしまうことも多いはず。そんなときに使いたいのが、全米で20万部も売れた『逆転交渉術 まずは「ノー」を引き出せ』(クリス・ヴォス、タール・ラズ:著、佐藤 桂:訳/早川書房)に記されている、プロの交渉術だ。

 著者のクリス氏は、なんとFBIの交渉人として24年間にわたりアメリカ国内外の人質事件を実際に解決に導いてきた“交渉のスペシャリスト”である。こうした経験を活かし、彼はその後、自身の会社「ザ・ブラック・スワン・グループ」を設立。さまざまなトップ企業へ交渉トレーニングや助言を提供したり、ハーバードやMITのほかビジネススクールなどでも教鞭をとったりしてきた人物だ。

 そんなクリス氏が提唱するのは、昔ながらの交渉術とは少し違い、まず相手から「ノー」を引き出すことで心を掴む“逆転交渉術”だ。

“必要なのは、人々を落ち着かせ、意思の疎通をはかり、信頼を得て、要求をことばで引き出し、こちらは共感を寄せているのだと相手に思わせることのできる、現場で役に立つ単純な心理的戦術や駆け引きだった”(本書より)

 交渉の要をそう語るクリス氏の交渉術には、果たしてどんなテクニックが隠されているのだろうか。

■交渉を有利に進める“戦術的共感”とは?

 クリス氏が実際に行ってきた「逆転交渉術」は、“戦術的共感”と呼ばれるコンセプトに基づいている。交渉を行うときは自分の意志を伝えることと同じくらい、相手の話を聞くことも重要になるものだが、ただ受動的に耳を傾けていてはいけない。

 心理療法の研究によると、人は話を聞いてもらっていると感じると、自分自身の声にも注意深く耳を傾けるようになり、自分の意志や感情を素直に分析したり、明確にしたりするのだそう。この間は反抗的な態度が薄れ、他の人の意見や考えにも耳を貸そうとするのだという。だからこそ、交渉を制するには能動的な傾聴をして、交渉相手の心に近づく必要がある。

 そのためにクリス氏はラベリングとミラーリングによって戦術的共感をしていこうと語っている。相手の感情やものの見方を理解し、隠されている裏の感情にも耳を傾けることができれば、相手に与える影響力を自分の思い通りに増大させていくことができるのだそう。

 ラベリングは、相手の感情を見抜き、それを言葉に出して訴えかけることで行える。例えば、目の前の相手が懐疑的であれば、抱いている不安や懸念をあえて口に出して、共感を示すのだ。一方ミラーリングは、話し方やボディランゲージ、声の調子などを真似することで行える。人間や動物は異なるものを恐れ、似ているものに引き寄せられるため、ミラーリングを活用すれば、相手が安心感を抱き、信頼関係も築きやすくなるのだ。

 こうした、相手の心を掴むラベリングやミラーリングの具体的な活用方法は本書に細かく記されている。絶対に逃したくないビジネスチャンスが控えている方は、ぜひ参考にしてみよう。

■「ノー」から交渉を始めるワケは?

 でも、ここまで相手の感情を掌握できるのならば、なぜ大事な交渉を「ノー」を得るところから始めなければならないのかと疑問に感じる方もいるかもしれない。顧客や取引を希望している相手に「ノー」と言われると、正直心が折れてしまうものだ。だが、「ノー」は交渉の起点であって、終点ではないのだという。

 著者いわく、「ノー」は現状を維持するための一時的な決定であることが多く、その裏には「もっと情報が欲しい」「他のものを求めている」「まだ同意する用意ができていない」といった気持ちも隠されている。そのため、こちらの考えに対して「『ノー』と言ってもいいですよ」という許可を示し、相手の自立性を保ってあげられれば、交渉を制することができるのはあなたのサイドになるのだという。

 その際は、相手の視点に立って説得し、「主導権を握っているのは自分だ」と相手に思わせることも大切になる。こうすると、「イエス」から始まる交渉よりもやり取りを通じて中身が濃い交渉を行えるのだ。

 プロの交渉術が学べる本書には、クリス氏が実際に教え子やクライアントに活用している「交渉のためのワン・シート」も収録されている。さまざまな問題を具体的に解決でき、自分の心とも向き合えるワン・シートを準備しておけば、あなたもきっと交渉のプロになれるはずだ。

 人生はさまざまな交渉の積み重ねによって、いかようにも変わる。だからこそ、日々の交渉を制して、より多くの幸せを得られる人になってみよう。

文=古川諭香