又吉直樹×堀本裕樹『芸人と俳人』が文庫化! 最果タヒによる巻末エッセイが追加収録!

文芸・カルチャー

公開日:2018/7/21

『芸人と俳人』(又吉直樹、堀本裕樹/集英社)

 春夏秋冬を表す季語を必ずどこかへ入れ、五七五で作られる有季定型俳句は、季語のない川柳や文字制限のない自由律俳句に比べると急にハードルが上がった気にさせられる。しかも「~かな」や「~けり」など、普段は使わないような言い回しや、「え、これって季節が違うんじゃ?」と思ってしまうような季語、さらには「こんな言葉、見たこともない……」という難しい言い回しもある。また覚えないと作れない、知っていないと恥をかくルール(もしかしたら恥はかかないかもしれないが、間違ってしまうと「あ……」と恥じ入る気持ちになってしまうのは間違いない)などもあって、なんだかとても難しく感じてしまうのだ。

 そんな俳句が、実は自由で楽しいものであることを教えてくれるのが、雑誌『すばる』で2012~14年に連載され、その後2015年に単行本、そして2018年に文庫化された『芸人と俳人』(又吉直樹、堀本裕樹/集英社)だ。芸人・又吉直樹が、俳人・堀本裕樹に有季定型俳句を教わる過程が対話形式でまとめられていて、基礎から順に懇切丁寧に解説されており、「ここを難しく考えてしまっていたのか」と気づかせてくれる一冊なのだ。

 又吉は堀本からレクチャーを受ける前に、日常で思いついたことや気になっていることを自由律俳句や散文としてまとめた『カキフライが無いなら来なかった』『まさかジープで来るとは』(いずれもせきしろとの共著/幻冬舎)を出版しており、『芸人と俳人』の冒頭でも「俳句には興味があった」「俳句や短歌の本を読んでいた」と述べている。しかしいざ『カキフライが無いなら来なかった』で句を書こうとしたとき、十七音もあることに改めて「長いな……」と不安になり、俳句がすごく高尚なものに感じられたという。

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 しかも又吉は寿司屋で注文ができず、いつも「お任せで」と言ってしまうことを引き合いに出し、「センスを問われることが恥ずかしくて選べない」「自分が格好つけてしまいそうな気がする」と、俳句に対する怖さを吐露。さらには「勝手なイメージですけど、俳句を作る人って、仙人の領域の存在みたいな気がするんです。言葉と体が完全にフィットしているでしょう」と、その高尚さを的確なイメージで表現している。

 この連載終了後の2015年、『火花』(文藝春秋)で芥川龍之介賞を受賞することになる作家・又吉直樹でさえ、当時はこうだったのだ!

 そんな又吉からの質問に、俳人の堀本はわかりやすく返答。俳句の基本「定型」から学び始め、季語や切字の「や」「かな」「けり」の使い方を習い、選句をして多くの歌人が詠んだ俳句を味わい、最終的には句会を開催して、鎌倉まで2人で吟行に出かけるまでになる。どういうときに俳句を作りたくなるのか、という又吉からの問いかけに「何かと出会ったときに俳句を作ろうと思うんですね」と優しく答える堀本だが、「俳人は、字余りも字足らずも、一つのレトリック、技法や表現方法として使います」とも語っており、俳人の凄まじいまでのプロフェッショナリズムも感じることができる。

 そして今回の文庫化にあたり、詩人・作家の最果タヒによる巻末エッセイ「まんじゅうこわい。定型こわい。」が追加されているのだが、これまで最果は俳句や短歌の誘いを逡巡の末に断っていたそうだ。しかし本書を読み、「又吉さんのこわがっている姿は、本当に共感せずには読めないもので、そして成長してく又吉さんはあまりにも眩しかった。正直ちょっとさみしかった」「私、とりあえず歳時記、買ってみようと思います」と書いている。そうなのだ。皆、俳句はなんだか難しいものと思ってしまっているのだ。

 でもそのもやもやとした気持ちは、この本を読めば雲散霧消する。そして読み終わった頃にはするするっと一句ひねり出している、かもしれない。

文=成田全(ナリタタモツ)