あの凶悪殺傷事件の犯人の心理とは… 殺人者はどうして生まれるのか?

社会

公開日:2018/7/8

『殺人者はいかに誕生したか 「十大凶悪事件」を獄中対話で読み解く』(長谷川博一/新潮社)

 2018年6月9日に発生した、東京発新大阪行きの東海道新幹線「のぞみ265号」の車内で起きた無差別乗客殺傷事件は多くの人々に驚きと恐怖を与えた。こうした事件が起きると必ず話題に上るのが“犯人は何を考え、どうして痛ましい事件を起こしてしまったのか”ということだ。

 その疑問を解決するヒントとなってくれるのが、『殺人者はいかに誕生したか 「十大凶悪事件」を獄中対話で読み解く』(長谷川博一/新潮社)だ。本書では犯罪心理学の第一人者として刑事事件で被告の精神鑑定を務めた経験もある長谷川氏によって、殺人者の心の闇が解き明かされている。

 長谷川氏は女優・東ちづる氏や作家・柳美里氏のカウンセリングを行ったことでも有名だ。以前は、岐阜県にある東海学院大学で教授をされており、犯罪心理学を教えながら、不登校の子どもたちの家に大学生や院生を派遣して心の交流を図る“メンタルフレンド”という活動にも力を注がれていた。筆者も実際に講義を受けたことがあるが、フレンドリーな反面、鋭い観察眼を持つ長谷川氏は臨床心理士を目指す学生たちにとって憧れとなっていた。

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 そんな長谷川氏が手がけた本書には殺人者たちがこれまでに決して明かせなかった、閉ざされた幼少期の記憶や壮絶な家庭環境が細かく記されている。世間を震撼させた凶悪犯は生まれながらの殺人者だったのではなく、殺人者になってしまったのだ。

■「なりたくてこんな人間になったんやない」

 大阪教育大学付属池田小学校児童殺傷事件を起こした元死刑囚の宅間守は「モンスター」とも称された凶悪犯だ。彼は遺族への侮辱的発言で裁判中に退廷させられたり、最後まで反省の気持ちを表に出さなかったりしたことでも有名であろう。

 しかし、長谷川氏との面会では徐々に素直な気持ちを吐露できるようになり、自身の生い立ちについての後悔を述べ始めた。そして、「最終的に池田小学校に行ってしまったことを後悔してる?」という長谷川氏の問いに、静かにうなずいたのだ。

「初めて言うけどほんまはな、途中でもうやったらいかん、やめないかん思って、そやけど勢いがあって止まらんかった。誰かに後ろから羽交い絞めされたとき、やっとこれで終われるぅて、ほっとしたんや」

「本能ちゅうんですかね、良心の呵責ですわ」

 宅間元死刑囚は長谷川氏だけに“良心”という言葉を使いながら犯行当時の気持ちを打ち明けたのだ。

 そんな宅間元死刑囚の心には「虐げられた子ども」が存在しており、自分の親に対する怒りの感情に翻弄されていたため、子どもの立場にはなれても親の立場にはなれないので、遺族や被害者への償いの気持ちを持つことができなかったのではないかと長谷川氏は分析している。

 宅間元死刑囚は、父親からDVを受ける母親を間近で見ながら育ってきた。そして母親は彼を妊娠したとき喜んだ父親に向かって「あかんわ、これ、おろしたいねん私。あかんねん絶対」と言っていたり、彼自身に産んだことを後悔するような言葉も伝えていた。そのため、宅間氏は自分が親から望まれて産まれてきた子どもではないことを薄々感じながら生きていた。

「物心ついた五歳頃は、もう悪い人間になっとった。すぐにカッとなって、手を出しとった。だからそれまでの育てられ方が大事っていうことですわ」

「なりたくてこんな人間になったんやない。気づいたらもうなってて、自分ではどうしようもできんかったんや。だから責任はない」

 そう語った宅間元死刑囚がもし、両親からの愛情をしっかりと受けながら安心して身を置ける家庭に生まれていたら、どんな道を歩んでいたのだろうか。

 殺人はもちろん、どんな理由があっても許される行為ではない。親や家庭環境に恵まれなくてもまっとうな人生を歩んでいる人も数多くいるだろう。しかし、周りを取り囲む人間の心の闇が殺人者を作りあげてしまうこともあるのかもしれない。

文=古川諭香