「松岡修造は間違いなく“弱い男”だ」――本人が語る“根性論ではない頑張り方”とは

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公開日:2018/7/12

『弱さをさらけだす勇気』(松岡修造/講談社)

松岡修造は間違いなく“弱い男”だ」。こう聞いて皆さんはどう思うだろうか? 「そんなはずはない」という声が聞こえてきそうだ。彼は「弱い」どころか、熱すぎる。日本を強烈に照らす太陽のようなイメージがある。彼のどこが「弱い」のだろう? 実は、松岡修造さんが「弱い」と認めたのは紛れもなく本人である。

『弱さをさらけだす勇気』(松岡修造/講談社)は、誰もが持つ「弱さ」を認め、それを生かしてチャレンジする方法を教えてくれる一冊だ。

■「弱さ」とは人生をひらく「きっかけ」のことである

 では、松岡修造はどのように弱いのか? 彼は自身でこう語る。「(強いイメージがあるが)むしろ人と比べるとかなり弱い人間で、ものごとをマイナスにとらえるところがあるんです」「試合で自分が不利になると、“もうダメ”とあっさりあきらめてしまうこともありました」。

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 しかし彼は同時に、「弱さ」とは人生をひらく「きっかけ」のことであると語る。彼は8歳でテニスを始める前に、2歳から水泳をやっていた。あるとき、水泳に「面白さ」より「つらさ」を感じることのほうが多くなった。彼自身の心の「弱さ」がもたらした挫折であった。そんなときに心惹かれたのがテニスだ。テニスは個人競技という点では水泳と同じだが、試合中は好きなようにプレーでき、自分を表現できるスポーツだと当時の彼は考えた。

 水泳には挫折した松岡さんだが、しかし、人生において無駄になるものなどひとつもない──と振り返る。事実、水泳で培った能力は、その後、テニスで生かされることになった。しなやかな筋肉、強靭な背筋力、肩の周りの柔らかさ……それは後に、強烈なサーブという形で、彼がテニスで世界と闘ううえでの武器へとつながった。無駄に思えるものも、全て自分の財産になり、生かすことができると彼は言う。水泳のきつさと単調さに耐えられなかったのは彼の「弱さ」だったかもしれないが、見方によればその「弱さ」こそが、彼のその後の人生をひらいてくれたのだ。

■ビリは伸びしろトップ!

 松岡氏といえば「本気になれ!」「自分を出せ!」といった熱いエールを送ってくれるイメージがある。しかし、意外に感じる人もいるかもしれないが、「根性論だけでは強くなれない」と、根性論をまっこうから否定する。 “間違ったがんばり方”をしてもそこに成長はない。技術を伸ばすには、正しいテクニック、正しいやり方が必要だ、という信念からだ。

 彼自身、高校生になるまで走るのが遅くて悩んでいた。「このままじゃマズい」と思い、走ることに真剣に取り組み始めた。その方法は本や雑誌にある練習法を読んだり、走り込みをしたりすること。反復練習を重ね、彼は足が速くなった。

 そうした実体験から、彼は「できない」ということを否定的に捉えない。むしろそこに大きな可能性を見出している。本書でもこんなふうに語る。「トップよりもビリのほうが、断然、伸びしろが大きいんです。伸びしろ的に言えば、ビリはトップ!」。

 それは自分の「弱さ」を見つめ、受け入れ、認めていなければ言えないことだろう。自分の「弱さ」を知ることで、どうしたら自分がステップアップしていけるかを冷静に分析することができるようになる。現状と目標の差異を細かく分析し、その差を埋めていくための戦略、戦術を冷徹に見据えることができるようになる。そして、自分に負荷をかけギリギリまで挑戦して、「もうダメだ」と感じたとき、限界という名の壁を乗り越えようと闘っているときに、私たちを鼓舞してくれる。それが松岡修造という男なのだ。

 弱さに背を向けて、ただがむしゃらにがんばるだけでは、自分にどんな伸びしろがあるかなんてわからない。もちろん、自分をうまく生かすことだってできやしないだろう。大切なのは「自分の使い方」を知ること。そのために松岡さんは「自分のトリセツ」を書くことをすすめている。

 いま、失敗を恐れ、身動きできず立ちすくんでしまう若者たちが多い。しかし、「自分なんか」「自分にはできない」「弱い自分にできるはずがない」……そんな思いに囚われる若者たちに、松岡さんは優しく語りかける。弱くていいんだ、弱さを感じるのはチャレンジしようとしているからだ。挑戦していない人はそもそも「弱さ」を感じることなどないんだ──と。松岡さんの強烈な「前向き」さは、自身の弱さから目を背けず、見つめつづけ、そこを出発点として培われてきたもの。その実体験をもとに、若者たちの背中を思いっきり押してくれる。

 本書は松岡さん以外にも羽生結弦選手やカーリング女子など、今話題のアスリートのエピソードが満載だ。アスリートたちが日々、自分の弱さと向き合い、葛藤する本音のトークは、同じアスリートとして「闘い切った」松岡さんだからこそ引き出せたものだろう。同世代の彼らが「弱さ」をどう武器にしてきたかを、是非本書で確かめてみてほしい。あなたも読めば悔しくなる、行動せずにはいられなくなるはずだ。

文=ジョセート