(1)ワンホールショット(2)100tハンマー(3)生もっこり。もしも『CITY HUNTER』の世界に転生したら何が見たい?

アニメ・マンガ

2018/7/25

今日からCITY HUNTER』(錦ソクラ/徳間書店)

 大好きな作品に出会った時、その世界を生きる自分の姿を想像したことがあるだろうか。主人公が絶体絶命の時に駆けつけて無双しまくるチートキャラ、あるいはワケ知り顔で暗躍するクール系銀髪キャラなど……。声優さんのイケメンボイスまで脳内再生余裕で妄想が膨らんでいくあの体験。幸せホルモンがドバドバとあふれ出てくる至福の瞬間だ。

 錦ソクラさんがコミックゼノン(発行:ノース・スターズ・ピクチャーズ 発売:徳間書店)で連載中の『今日からCITY HUNTER』は、そんな大好きな世界で生きることになった女性の物語。原作はもちろん北条司先生の『CITY HUNTER』(以降、CH)。だが、本作は「原作」ではなく「参考書」とクレジットされている。

■『CH』オタクが『CH』の世界にまさかの転生!?

『今日からCITY HUNTER』をざっくりと乱暴に説明すると、オタクOLが『CH』に異世界転生して『バック・トゥ・ザ・フューチャー』するお話だ。主人公は40歳独身の青山香。一度はマンガ家を目指したが夢に破れ、今はしがない派遣社員。そんな彼女の心の支えになっているのが『CH』だった。冴羽リョウ(ケモノ偏に尞)と槇村香によるドラマチックなストーリーに悶絶しては、現実に引き戻されてうなだれる日々を送っていた。

 そんな彼女に突然人生のピリオドがやってくる。通行人の不注意で駅のホームに落とされ、目の前には迫りくる電車が……。死んだと思いきや、気が付くとそこは1980年代の新宿。当の本人もなぜか女子高生に若返っている。「タイムスリップってやつ?」と頭をよぎる香だが、交番に聞いても実家の住所も電話番号も存在しないと一蹴。ここはどこ? 私はなぜここに? 文字通りひとりぼっちの香は、新宿の掲示板に“XYZ”と書き込みながら涙に暮れる。「助けてよシティーハンター…」。そこへ現れたのは新宿の種馬、じゃなくて世界有数のスイーパー“シティーハンター”こと冴羽リョウだった。

■イタコ漫画家、錦ソクラの画力とセンス

 実は連載開始当初、錦ソクラさんのインタビューを行うことができたのだが、正直なところ本作がどんな物語になるのか、当時はあまり想像できていなかった。実際はあの時すでに、ソクラさんは「名エピソードの数々を、いちファンの視点で少しだけ違った角度から追体験できるような、そんな作品にしたい」と語っていた。あれから約9ヵ月、今は自分の読解力の未熟さを猛省しつつ、めちゃくちゃ興奮しながら読んでいる。それくらい『今日からCITY HUNTER』からは、原作への愛とリスペクトがあふれているのだ。

「北条司先生を前に感極まって泣いたのもいい思い出です」『シティーハンター』転生モノを描いた作者の意外な素顔

 第1巻で、冴羽商事のマンションに居候することになった青山香(以降、槇村香との混同を避けて西園寺沙織を名乗っているため、沙織と表記)は、ある出来事に遭遇する。初登場の美樹が海坊主に結婚を迫る、原作の第159話「海ちゃんたら色男!」から始まる人気エピソードだ。そこで沙織は本物の海坊主のデカさと迫力に圧倒され、喫茶キャッツ・アイで彼らの一連のやり取りを間近で目撃する。名場面の数々を登場人物の1人になって物語に参加する喜び。その1つ1つをソクラさんは端折らず丁寧に、じっくりと描いている。

 ここで活きてくるのがソクラさんの卓越した画力だ。これまで『3年B組一八先生』(竹書房刊『近代麻雀』に掲載)でたびたび様々な作品のパロディを披露してきたが、本作でも北条先生の線の描き方を研究しながら、時に同じ構図、時に別の視点から再現を試みている。トレースではなく、見ながら、だ。もちろん完全な再現は至難の業だろう。ためしに原作の同じエピソードを確認してみたが、まったく同じとは限らなかった。でも、それは沙織あるいはソクラさんから見た、少しだけ違う視点の『CH』を描いているからでもある。原作エピソードにある絵やコマをなぞりながら、オリジナルの物語として昇華しているのだ。

■ファンの期待を裏切らない『CH』らしさ

 また、『今日からCITY HUNTER』の魅力はビジュアルだけじゃない。たとえば物語の序盤には、居場所がなくて泣き崩れる沙織を見たリョウが、「おれと…同じだな…」とつぶやくシーンがある。前に北条司先生、初代担当編集者の堀江信彦さんに取材をしたことがあるが、お二人が語った冴羽リョウというキャラクター像にもリンクしている。身寄りがなく、幼い頃から戦場で育ち、すさんだ野良犬のように新宿に流れ着いたリョウは、この街で新しい人生を手に入れた。彼は沙織に昔の自分を重ねたのだろう。そんなバックボーンを含めた原作の本質をきちんと作品に落とし込むことで、「リョウだったらこう言うはず!」と、ファンの期待を裏切らないところも素晴らしい。

 ストーリーの重要なポイントになっているのは、沙織という特異点が存在することで、『CH』の本来あるべき流れが変わってしまうのではないか、という問題だ。次々と起こる“あの名シーン”を前に、沙織は大ファンであるがゆえの野次馬根性を抑えきれない。しかし彼らの物語にわずかでも介入すれば、バタフライ効果のように、原作とは違う世界線が生まれる懸念がある。ファンとしてそれは絶対にやってはいけない。今後はそんなジレンマがたびたび沙織を悩ませるに違いない。

 7月20日に発売した第2巻では、リョウと海坊主の決闘を終え、原作と同じ流れで第165話「スーパー乳母と哀しい天使」のエピソードへと突入した。「このペースでどこまで描かれるんだろう?」「つまりこの次は“空とぶおしり”こと麻生かすみが出てくるのでは?」など色々と妄想が尽きないが、2019年の『劇場版シティーハンター』を前に、ひと味違う『CH』を楽しめるのは僥倖だ。原作ファンは一読の価値あり、と自信を持って断言できる作品だと思う。

文=小松良介