“直感の人”羽生善治が考える「直感」の定義とその磨き方

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公開日:2018/7/25

『瞬間を生きる』(羽生善治:著、岡村啓嗣:写真/PHP研究所)

 仕事における「ベテラン」とは、歴何年目からを指すのだろうか。切りのよい10年以上と答える人もいれば、職種や本人の資質によると答える人もいるだろう。いずれにしても、ベテランの域に達した人たちは、知識や技術以外に“もっている”ものがあるように感じられる。例えば、それは「直感」といわれるもの。恐らく経験が深く関わっていると思われる「直感」は、一朝一夕では身につけられないものなのだろう。

 将棋の羽生善治氏は「直感の人」といわれる。その優れた直感力で白星を積み重ね、2017年には史上初となる永世七冠を達成するとともに、国民栄誉賞を授与された。2018年12月で棋士として丸33年を迎える氏の軌跡を、発言ならびに写真とともに振り返る『瞬間を生きる』(羽生善治:著、岡村啓嗣:写真/PHP研究所)にも、「直感」の文字が随所に見られる。私たちは「直感」を「言葉にならない何か」と捉えがちだが、論理的思考に長ける羽生氏は折に触れて「直感」を論理的に考え、言語化しようとしているのが興味深い。

自然と湧き上がり、一瞬にして回路をつなげてしまうものを直感という。さらに、確信に結びつけることで、直感は初めて有効なものとなる。

 羽生氏は「直感」をこう定義する。「確信に結びつける」ためには、いわゆる“経験値”が必要になってくるのだろうと安直に考えてしまいそうになるが、氏はそれだけに拠るのではないという。

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ロジックを積み重ねる地道な訓練を繰り返すうちに、直感的に試合の流れや勝敗の分岐点となる勝負どころ、最終的に辿り着くであろう局面が正確に読めるようになる。

 論理的に考える訓練によって、ここぞという場面での決断を直感に任せられるようになる。氏にとって、直感力はただ単にキャリアを経れば磨かれる受動的なものではない。

 本書には「幸運に委ねることをよしとしない」「いつも今から」といった内容の発言がたびたび登場する。自らの人生にあくまで主体的で前向きな考え方や姿勢は、ともすれば運命に身を委ねてしまいがちな私たちの心を揺さぶり、勇気を与えてくれるはずだ。

文=ルートつつみ