覚醒剤で逮捕4回、通算服役12年。塀の外からはわからない「女子刑務所」の日常…

社会

公開日:2018/7/25

『女子刑務所ライフ!』(イースト・プレス)

私は、覚せい剤取締法違反で過去に4回逮捕され、1回目は執行猶予でしたが、その後に合計で12年間の懲役を経験しました。

 女子刑務所の実態を描いたエッセイとして、『女子刑務所へ入っていました』(竹書房)が話題になっている。そして、負けず劣らず面白いのが本書『女子刑務所ライフ!』(イースト・プレス)だ。本書の著者の中野瑠美さんは、現在、ラウンジ経営や文筆業で生計を立てており、立派に更正したといえる。当時を振り返り、女子刑務所の環境を「反省できる雰囲気ではない」と言い切ってしまう関西人らしい正直さが本書の大きな魅力である。

 たとえば、本書では普通の女性受刑者なら「言いにくい」と感じるような事柄でもズバズバと解説していく。裁判を経て刑務所に収容されるまでの流れも丁寧に描かれているが、やはり一般の読者が気になるのは「塀の中」の生活だろう。1日8時間の刑務作業を行いながら、トイレに行くのにも許可が要る刑務所では、当然、受刑者たちのストレスが最大限にたまっていく。では、彼女たちはどうやってストレスを解消しているのか? 答えは、「いじめ」である。

「私は関わらないようにしていた」という注釈つきだが、著者が語っていく女子刑務所のいじめは、陰湿であると同時に、「なんだかショボいなあ」と思わずにはいられない。「生意気な口をきいた」程度でいじめは開始され、大勢でシカトしたり、すれ違うときにぶつかったりするのだ。まるで子供である。逆をいえば、そんなことをせずにはいられなくなるほど、刑務所の空気はピリピリしているのであろう。

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 毎日がこんな具合なので、運動会のような行事が開かれるととたんに修羅場となる。著者も「独居房」行きを覚悟のうえで、自分をいじめていた受刑者を靴で殴りにいったという。それだけでは収まらず、作業場を破壊し、警備隊に連行されても抵抗してしまい、懲罰が長引いてしまった。こうしたエピソードを笑い話として語れるところに、著者の豪快な性格がうかがえる。

 一方で、刑務所にも楽しみはある。規則と監視でがんじがらめにされた毎日で、食事は心の支えだ。本書でも、食べ物に関する思い出話が満載である。とはいえ、いわゆる「ごちそう」は出てこない。いかにして、質素な刑務所メニューを「グルメ」に変えるかが刑務所生活のポイントなのだ。ごはんに飽きると「胃が痛い」と嘘をついておかゆにしてもらったり、集会で配られたお菓子をたくさんほおばって口の中が切れたり、努力が涙ぐましい。

 また、男性のいない女子刑務所において、同性愛に目覚めた受刑者たちのエピソードも衝撃的である。「オトコ」と呼ばれた彼女たちは、相手役である「ネコ」を求め、ときにはセクハラまがいの行為にも走っていた。著者もお風呂場などで被害に遭っていたという。ちなみに、若くてかわいい新入りが入ってくると、オトコたちも髪型を必死で整えるなど「ガチで恋愛モード」に突入するのだとか。

 そのほか、大事件を起こして懲役刑となった通称「芸能人」との思い出や、犯した罪によって顔つきが変わるなどの話も、普通に暮らしているだけでは絶対に共有できない。つくづく刑務所とは、非日常が日常になっている場所なのだと思わされる。

 最後に、著者の「更正」についての意見も引用しておきたい。著者は上から「反省しろ」と押さえつける刑務所のシステムに疑問を感じている。そして、チョーエキ(懲役刑の受刑者)が本当に悔い改めるのは、一般人との接点を持ち、行事などで交流を深めたときだと指摘する。

こうした行事に参加することで、自分自身で反省したり悔やんだり……そして「逆に今度こそ更正して家族を大切にしよう」と心に誓ったりしていました。

 著者は現在、刑事収容施設の収容者への差し入れ代行や、元収容者の支援などを積極的に行っている。本書で読者は女子刑務所のリアルに笑い驚きながら、「更正」の意味についても考えさせられるだろう。

文=石塚就一