「アニメ業界ブラック説」は本当なのか? 日本のアニメビジネスの実態は…

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公開日:2018/7/26

『製作委員会は悪なのか? アニメビジネス完全ガイド(星海社新書)』(増田弘道/講談社)

 次々にヒット作が登場する日本アニメ。アニメファンとしては嬉しい反面、早い“商品回転率”ゆえ、流れについていくのに余裕がなくなっていたりする。

『製作委員会は悪なのか? アニメビジネス完全ガイド(星海社新書)』(増田弘道/講談社)によると、昔からある娯楽コンテンツ産業の中で、唯一成長し続けているのがアニメ産業だという。映画は1958年、出版(マンガ)は1995年、ゲーム(コンシューマーゲームソフト)は1997年、音楽(CD)は1998年にそれぞれピークを迎え、その後衰退している一方で、アニメだけは順調に伸び続け、2016年には市場規模が2兆円を突破している。

 日本のアニメ産業が成長し続ける最も大きな要因は、アニメを観る層が全年齢に存在すること。これは、世界的に見ると非常に稀有な例。世界の常識は「小学校を卒業するとアニメも卒業するから」だ。近年は世界でもアニメを観る大人が増えてきているそうだが、日本ほど熱心ではない。

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 市場が拡大し続ける一方で、ネガティブなウワサもある。「アニメ業界はブラック」というものだ。アニメの製作現場、とくにアニメーターは長時間労働、低賃金。それは、製作委員会から制作会社に支払われる制作費が少ないため。製作委員会が諸悪の根源だ、とする意見がネット界隈で飛び交っている。

 一つの企業や個人が製作資金を全額出資するのではなく、複数の企業が組合を立ち上げて出資する「製作委員会」方式。このやり方で、現在、日本ではアニメの9割以上が生み出されている。そして、実は「製作委員会」方式は、日本独自の文化。海外では「自信がある企画は全部自分で出資して利益を得たい」ため、「製作委員会」方式をとることは少ない。

 なぜ、日本では「製作委員会」方式がとられるのか。本書は、その理由を「量産主義」としている。例えば、ハリウッド映画は大作主義で予算を多くかける。かたや、日本のアニメ作品は、「当たる確率が低いから、少しでも多く目を張ろう」とする。リスクを最小限に抑えようとする日本の典型的な企業的考え方だ。

「多く目を張ろう」とする考え方は、マンガ雑誌にも表れている。海外…例えばアメリカの「アメコミ」では、薄めの雑誌一冊に単一のタイトルが掲載されるが、日本では一冊に複数のタイトルが掲載される。

 いずれにしても、量産するためには人材を豊富に必要とする。働き手が減少し、人材が確保できないため、ショート作品が増えたり、海外にアウトソーシングしたりする。量産主義によるこのような循環から、制作者に支払われる賃金は上昇しない。製作委員会が日本の土壌に合っているのを認めたうえで、作品をつくっている会社がもっと力を持つようになるべきだ、と本書は考えている。

 巻末で、次のように述べられている。

アメリカでは、ハーバードのビジネススクール卒業生が押し寄せるようになったら、その業界はピークでやがて下り坂になるといったジョークがありますが、日本では東大生ということになるでしょう。
学生に両親が勧めるのはそのような業界ですが、アニメはまだそうなっていません。

 本書は、「製作委員会」方式とアニメ業界のあり方、将来について深く考察している。制作費と人材の問題が緩和され、素晴らしい作品が登場することを願わないファンはいない。

文=ルートつつみ