モンスターだらけの世界旅行!? 16世紀の詩人が遺した絵地図で出会う、224のモンスターたち

暮らし

2018/7/29

『世界モンスターMAP』(スチュアート・ヒル:絵、サンドラ・ローレンス:文、小林美幸:訳/河出書房新社)

 いくつになっても、聞くだけで心躍る言葉がある。そのひとつが「モンスター」だ。ヴァンパイア、トロール、一角獣……小説や映画でなんどもなんども出会い、おののき、魅了されたモンスターたち。この広い世界にはどんなモンスターが、どんな場所に、どんな姿形で潜んでいるのか。幼いころに夢想した人は少なくないだろう。いや、大人になった今だって、モンスターに憧れやロマンを抱く人はたくさんいる。そんな人たちにおすすめなのが『世界モンスターMAP』(スチュアート・ヒル:絵、サンドラ・ローレンス:文、小林美幸:訳/河出書房新社)だ。かわいくて個性的なモンスターのイラストに彩られた絵本だが、子ども向けとあなどるなかれ。ひとたび表紙をひらけば、そこに広がるのは大人もじっくり楽しめる充実のモンスター事典だ。あまりの面白さに、読み終えたあと大人子どもにかかわらず手当たりしだい配り歩きたくなってしまった。

 この絵本は、2つの物語が互いにからみあいながら展開されていく。冒頭に掲載されるのは、イギリスのとある館で図書館司書をつとめる人物がつづった、地図制作会社あての手紙だ。いわく、館の主人亡きあとに発見された奇妙な絵地図を、専門家に見てもらいたいとのこと。その絵地図は、16世紀の詩人コーネリアス・ウォルターズが遺したもので、地図上には世界中の不思議な生き物の記録がつけられていた……あたかもウォルターズ自身が航海して出会ったかのように。

 世界中を網羅した絵地図には、224ものモンスターがイラストと文章で記されている。各地の神話や民話をもとにしたモンスターの解説だけでなく、いかにそれらと出会い、ときに戦い、ときに感銘を受けたかもメモされており、まるで一緒に世界を旅したような気分になる。そして絵地図の合間に書き残された、ウォルターズの目の前になんども現れたという謎の記号によるメッセージ。わたしたちはウォルターズの古い旅を追いかけながら、絵地図の発見者である司書がところどころに貼りつけた研究メモを通して、ウォルターズが直面したミステリーを一緒に解いていくことになる。16世紀の各大陸と、現代のイギリス。この2つを行き来しながら、わたしたちは跋扈するモンスターに圧倒され、ウォルターズたちの旅に手に汗握り、彼らを襲った数奇な運命の真相に迫るのだ。

 本書に登場するモンスターをちらっと見てみよう。作中で司書も指摘していることであるが、面白いのは何百キロも離れた場所で似たモンスターが発見されたり、その一方で西洋のドラゴンと東洋の龍のように、一見近しいがまったく性質の違うモンスターが現れたりすることだ。絵地図なのでそんな比較も簡単にでき、モンスターの奥深さにますますとらわれてしまう。

 有名どころでは、冒頭にもあげたヴァンパイアやトロール、一角獣のほか、ゴーレムやオオカミ男、ゾンビなど。ビジュアル的に強烈だったのが、馬と騎手が合体したような姿で、皮膚や毛がなく血のにじむ肉がむき出しになっている「ナックラヴィー」(スコットランド)などだ。もちろんイラストはとてもかわいらしいので、お子さんでも安心して読んでいただきたい。見てみたいなと思ったのは、眠りながら知識を吸収する巨人「アンテロ・ヴィプネン」(フィンランド)だろうか。長いあいだ眠りつづけたせいで、毛布がわりの土から森が育ったという。穏やかで素敵だ。

 日本からは、9種類の妖怪が登場する。オーソドックスなものから「そうきたか!」と意表を突かれるものまで、バラエティ豊かなチョイスである。ぜひ本書で確認してほしい。

 本書が頼もしいのは、神話や民話をしっかり下敷きにしているだけでなく、大学教授として活躍するモンスター研究者が、協力者として名を連ねている点だ。モンスターを愛する大人たちが本気でつくった絵本だということを実感する。

 謎に満ちた世界旅行気分にひたるもよし、お気に入りのモンスターを探してみるもよし。大人から子どもまでのめりこむこと間違いなしの本書、あなたはどう楽しむだろうか。

文=市村しるこ