引っ越さずに解決したい、ご近所トラブル。法律のプロ・弁護士による“騒音問題”解決法とは?

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公開日:2018/7/31

『隣り近所のトラブル解決』(荒井総合法律事務所/法学書院)

 いつの時代もご近所トラブルが絶えない。「騒音」「悪臭」など、たいてい家で過ごすときにトラブルに遭うので、逃げ場がなくストレスが鬱積していく。さらに解決の手段も見えづらく、会社の嫌な上司よりもタチが悪い……。

 一軒家や分譲マンションになると、「ここはウチの敷地だ!(=越境)」「日当たりが悪くなった……(=日照権)」などの問題もあるだろう。

 話し合いでトラブルを解決できない以上、その先にあるのは「法律」しかない。

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『隣り近所のトラブル解決』(荒井総合法律事務所/法学書院)では、法律のプロである弁護士がご近所トラブルの解決方法をアドバイスしている。さっそくその一部をご紹介していこう。

■騒音に困ったときは

 ご近所トラブルのうちトップクラスで多いのが、騒音問題ではないだろうか。

 ご近所の騒音を差し止める請求や損害賠償を求めるときに重要になるのが、社会通念として一般に我慢すべき限度「受忍限度」だ。各自治体が騒音に対する環境条例を定め、受忍限度となる音の大きさ「デシベル」を取り決めていることが多いので、まずは地域の役所に問い合わせてみよう。

 この音の大きさを超えているかどうかが、裁判所が請求を認める上での重要な判断材料になる。もし法的な手段に進む場合は、客観的な立証資料をできるだけ集めよう。ちなみに、「隣がうるさくて困っているんです」という主観的な主張では認めてもらえないので要注意だ。

 一方、工事現場をはじめとする事業活動や生産活動に伴って発生する騒音は「騒音規制法」によって制限されている。これを超える騒音に困った場合は、以下の方法がある。

・地方公共団体の環境担当部局への苦情相談
・建築協定による防止措置
・公害紛争初期制度の調停などの利用
・建設工事禁止の仮処分や訴訟による差止・損害賠償請求

「うわ~なんじゃこれ……」と頭を抱える読者もいるだろう。この本を読んだ私も思わず「うげぇ」と声を漏らしてしまった。ご近所トラブルがヤッカイなところがここにある。一応解決の手段は存在するものの、一般人には非常に分かりづらく煩雑で面倒なのだ。

 筆者も現在となりに住む爺さんに悩まされており、なんとか解決したいと話し合い(ブチギレ合い)をしたり管理会社に相談したりするのだが、一向に改善する気配がない。

 家に住むのはある種「賭け事」に近い。隣人がまともかどうかは事前に調べようがないので、まるでギャンブルだ。そして筆者は見事に負けてしまった。

■隣人の違法建築はいち早く中止・変更を求めよう

 賃貸マンション・アパートに住む人々は、何かトラブルに遭ったらひょいと引っ越して解決する方法がある。しかし一軒家や分譲マンションに住む人々はそう簡単にいかない。

 たとえば、隣人が敷地の境界線のギリギリ、もしくは敷地を超えて建物を建築してきた場合、一刻も早く建築の中止・変更を求めよう。

 もちろん完成してしまった後でもその建物を撤去する請求ができる。しかし撤去には経済的負担がかかるため、その違反建築物がもたらす被害が小さい場合、請求が認められないことがあるのだ。損害賠償請求もできるのだが、訴えを起こした人の望む額が認められるかどうかは分からない。

 だからいち早く違法建築の中止・変更を求めることが重要になる。

 また、最近では「民泊」によるトラブルもあちこちで起きている。もし民泊で困ったことが起きた場合、まずは管理組合や管理会社に相談してみよう。彼らが定める管理規約に違反している、もしくは区分所有法上の共同利益背反行為に該当すれば、民泊営業の停止を求めることができる。ちなみに共同利益背反行為とは、タバコのポイ捨てやゴミ捨ての不始末など、明らかなマナー違反のことだ。最近では民泊に関する法律もできたので、地域の役所にも確認してみよう。

 この他、本書では「日照」「悪臭」「ゴミ屋敷」「ペット問題」「無断駐車」など、様々な隣人トラブルの解決法をアドバイスしている。

 正直なところ、本書は少々読みにくい。圧倒的な文字量と堅い文章の連続に頭がクラクラしてくる。しかしその後に本物の法律の条文が書かれた法務省のサイトを確認してみると、途端に印象が変わった。めちゃくちゃ読みやすい! それほど法律は難しく、それを正しく解釈するには技術を要するのだ。

 法律は私たちの安全と安心を守ってくれるものだが、いざ法律を活用してトラブルを解決しようとすると、脳みそが鎖に縛りつけられたような感覚になる。本書の読みにくさが表しているように、ご近所トラブルは実に解決が難しい問題だ。できるならば、本書を活用しない生活を送りたいところだ。

文=いのうえゆきひろ