元編集長が語る『週刊少年ジャンプ』の過去、現在、そして未来…「友情」「努力」「勝利」の原点とは──?

マンガ

公開日:2018/7/31

『「少年ジャンプ」 黄金のキセキ』(後藤広喜/ホーム社)

 2018年7月、漫画雑誌『週刊少年ジャンプ』は創刊50周年を迎えた。653万部という、一週の発行部数としては驚異的な数字をたたき出してギネスにも登録された雑誌ゆえ、漫画好きでなくともご存じの向きは多いはず。その人気は当然ながら、掲載されてきた漫画作品によるもので、50周年記念号である2018年33号には歴代漫画家の直筆サイン色紙が居並んでいる。現在の読者の中には『男一匹ガキ大将』や『トイレット博士』などの漫画を知らない人がほとんどであろうが、これらの連載作品が『ジャンプ』の50年を支えてきたのである。そしてその足跡を伝えるべく上梓されたのが『「少年ジャンプ」 黄金のキセキ』(後藤広喜/ホーム社)だ。

 著者の後藤広喜氏は『週刊少年ジャンプ』四代目の編集長を務めた人物である。昭和45年の4月、前年の10月に週刊化されたばかりの『少年ジャンプ』編集部に初めて配属された新卒の新入社員だったという。つまり草創期から全盛期に至るまでを、ずっと見続けてきた人物だといえる。いち編集者から編集長へと続く氏の足跡は、『週刊少年ジャンプ』の歴史と同義なのだ。ゆえに本書に記されていることは、まさに「当事者」としての重みがある。そして読者の知りたいであろう多くの項目が、本書では詳しく触れられている。

 例えば『週刊少年ジャンプ』で有名な「友情」「努力」「勝利」という三大テーマ。連載漫画にこの要素のうち最低ひとつは入っていることが編集方針といわれるが、後藤氏によれば、もともと漫画作りにおけるルールのようなものではないのだという。これは「読者アンケート」の設問で「大切だと思う言葉」や「うれしいと思う言葉」などを尋ねた結果、いつの時代も上位に来るのがこの3つだったのだ。つまりこれは、『ジャンプ』の読者像を示していたのである。そこから編集者によっては「この3つのテーマを漫画に入れ込めば、読者にウケるだろう」と考え、編集方針のようなものになっていったとすれば、非常に理解できる話だ。

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 そしてこれもよくいわれる「読者アンケート至上主義」であるが、これにはある「事情」があった。そもそも『ジャンプ』の創刊時、先行する『少年マガジン』など他誌に大きく水を開けられた状態だった。それを挽回するには人気作家の連載が不可欠だが、他誌で描いていた漫画家になかなか依頼できないのである。ゆえに新人作家の起用へと舵をきることになるのだが、知名度がないぶん、漫画の面白さのみで勝負するしかない。その人気を測る方法こそが「読者アンケート」なのだ。人気がなければ10週で打ち切られるという過酷なシステムだが、後藤氏は「新人漫画家を連載漫画家にまでもっていくには、結果的にこの手法は最大の武器になった」と語る。

 そして編集者と漫画家の努力は実り、『ジャンプ』は653万部のギネス記録を達成する。本書ではそれを支えた漫画を4期に分けて紹介。『男一匹ガキ大将』や『リングにかけろ』『ドラゴンボール』に『スラムダンク』など多くの名作が並ぶ中、氏が「分水嶺となった」という作品がある。それが『幽☆遊☆白書』だ。この作品はアニメ化されているが、女性ファンが非常に多かった。そしてアニメからのファンはコミックスは買うが、『ジャンプ』本誌は読まないという現象が顕著になったのである。そして『幽☆遊☆白書』以降、この傾向はますます強まり雑誌の発行部数は減少していくのだ。

 無論、発行部数が減少する理由はひとつではない。後藤氏は「雑誌の発行部数を誇る時代は終わった」といい切る。そして新たな時代にふさわしい「新メディアの創造を成し遂げてもらいたい」とも。『ジャンプ』50周年の節目に出版された本書は、雑誌の未来を考える上で、非常に有益な機会となるに違いない。

文=木谷誠