TVアニメ『Free!』の原案小説、幼い水泳男子たちの心の物語

文芸・カルチャー

更新日:2018/7/29

 水泳に懸ける青春、少年たちの友情、みなぎる上腕三頭筋! アニメ3期『Free!-Dive to the Future-』の放送が、7月よりついにスタートした。

 同シリーズの原案は、「京都アニメーション」主催の「京都アニメーション大賞」小説部門で奨励賞を受賞した『ハイ☆スピード!』。これまでに2冊の文庫が刊行されている。

 1巻で描かれるのは小学生編。小学6年生の遙、真琴、渚は、同じスイミングクラブに通う友人同士。そこへ、別のスイミングクラブに通っていた凛が転校してきて新たな仲間に加わる。チームに目を向けず、ただ本能のままに泳ぐ遙、ある理由で絶対にメドレーリレーで優勝したい凛。ともに水の中で過ごし、真正面から思いをぶつけ合ううち、4人はチームとしての結束力を高めていく。

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 TVアニメ『Free!』でも小学生時代が描かれるが、原案小説が元になっているシーンもある。TVアニメ『Free!』とは趣の違った心情描写に、「遙の水泳への強い哲学」「凛の父親への思いが切ない……」「真琴、遙に対する思いが深すぎでは」「渚かわいい。マジ天使」と登場人物への愛着もますます深まるはず。アニメとはまた違った児童文学の趣を楽しむことができる。

 そして2巻になると、遙たちは中学生に。こちらは『映画 ハイ☆スピード!-Free! Starting Days-』の原作原案にもなった小説。岩鳶中学に進学した遙と真琴が、新たな仲間と出会い、水泳を通して新たな成長を遂げるストーリーになっている。現在放送中のアニメ『Free!-Dive to the Future-』でも重要なポジションを占める郁弥、そして旭も、原作からのキャラクターだ。

 2巻では、水泳部に入部した遙、真琴、郁弥、旭の4人でメドレーリレーに出場することになるが、彼らの間には溝があり、チームとしてのまとまりは弱い。水への恐怖心を拭い去れない真琴、自分の心を制御できず、人とうまく付き合えない郁弥、なぜかクロールだけ泳げなくなってしまった旭。そして遙もまた、フリーにこだわるあまり大きな壁にぶつかることになる。それぞれが自分自身の心に向き合い、葛藤し、もがきながらも、力強いストロークで前に進んでいく4人。そんな彼らの姿に、思わず大胸筋……いや、胸が熱くなる。

 なお、小説で描かれるのは中1の初夏までだ。TVアニメ『Free!』では高校生の姿が描かれているが、アニメは原案小説とはまた別の物語。同じ展開ではないが、頭の片隅に置いておくとまた違った楽しみ方ができるかも……? アニメと原案小説、両面から水泳男子の物語を味わいつくしてほしい。

文=野本由起