戦後の下町で描かれる悲しく優しい不思議な物語

小説・エッセイ

2012/3/17

わくらば日記

ハード : PC/iPhone/iPad/Android 発売元 : KADOKAWA / 角川書店
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:BOOK☆WALKER
著者名:朱川湊人 価格:567円

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わくらば日記/朱川湊人/角川書店

舞台は昭和30年代の日本。「わっこちゃん」と「姉さま」は母と一緒に仲睦まじく暮らしていた。貧しいけれど、それでも楽しく、周りの人たちと同じように平穏な日々。

しかし、姉さまはほかの人と少し違っていた。
白く病弱で、とても美しかったということ。
そして、人や物の記憶を読み取る力を持っているということ…。
姉さまの力は、わっこちゃんの日常にほんの彩りを加えるだけのものだった。
でも、ふとしたことからお巡りさんと関わるようになり、姉さまの力は、おぞましい事件の真相を突き止めるために使われるようにもなっていく。

姉さまが特殊な能力-いわゆるサイコメトリーという能力だろうか-を使用するということもこの物語の大きな特徴だ。しかし、それ以上に胸を打つのはノスタルジックな世界観。昭和30年代という日本が大きく成長していこうとしている中で、子どもたちはどのように世界を見つめ、生きてきたのかがうかがい知れる。

物語自体はわっこちゃんが昔を回想している状態で進んでいくので、それがまたノスタルジックさを感じさせるのかもしれない。また、そんな空気の中で人や物の記憶を読み取る能力というのは、とても異質でそれでいて「そんな人がいたっておかしくないよね」と感じさせるのだ。確かに日本が辿ってきた時代だというのに、どこかファンタジックな世界のように思える。

しかし、ただふわふわとしただけで終わらない。
わっこちゃんたちが関わる事件は残酷で、人の悲しさがにじみ出る。そして多くの事件は人は優しく、善意が一方であるからこそ起こり得る事件なのである。それを姉さまはいつも澄んだ瞳で悲しげに真相を見つめる。

わっこちゃんの語りだけなので、姉さまの心の内は推し量ることしかできない。しかし、その胸はいつも悲しみで押しつぶされそうになっていたことだろう。さらに常に別れの予感を漂わせているがゆえに、この物語に悲しさ、寂しさを感じさせる。姉さまは、体が弱かった。長く生きることはできなかったのだ。

「わくらば」とは「病葉」と書く。病気や虫のせいで変色してしまった葉のことを言う。果たして、これは姉さまのことなのか、それとも、日常の中で起こった残酷な事件を指すのか…。

読み終えたあと、考えを巡らさずにいられない。


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横向きよりも縦のほうが読みやすい

5編の短編から成っている本作。目次だけで当時に思いが馳せられそう