大した財産がないほうが実は厄介! 知らないと相続税が2倍になるケースも。プロが教える賢い相続

暮らし

公開日:2018/7/30

『残念な相続』(内藤克/日本経済新聞出版社)

「まだまだ自分には関係ない」。そう思っていても、いつか向き合わなければならないのが、相続だ。ある日突然に、ということもあるだろう。

「相続なんて、財産のある家の話だろう」。そう考える人も多いかもしれない。しかし、財産の多い少ないに関係なく、相続はすべての人々に関わってくるもの。身近な人々とのトラブルを避け、確実に節税しながら相続を済ませたいものだ。そのために必要な知識を教えてくれるのが『残念な相続』(内藤克/日本経済新聞出版社)だ。

 著者の内藤克氏は30年近いキャリアを持つベテラン税理士。数多くの相続に立ち会ってきた経験をもとに、「相続人目線」で必要な知識をひもといてくれる。財産を残す被相続人(親)の立場から節税や保険をすすめるアドバイスが多いなか、財産を引き継ぐ相続人(子)の立場に立ち、相続にまつわる疑問や悩みに答えてくれるのは、本書の大きな特徴。その一端を紹介していこう。

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■「大した財産がないから相続は楽」は大きな間違い

「うちには大した財産はありませんから…」
「うちは長生きの家系ですから…」
「うちは兄弟仲がいいですから…」

 多くの人が相続対策は必要ないと考える理由は、この3つに集約されるという。しかし実際には、相続すべき資産が潤沢にある場合よりも、大した財産のないケースのほうが、よほど相続は大変なのだと著者は指摘する。

 たとえば、父親が亡くなり、母親と子2人(合計3人)が相続人となり、相続する財産が自宅だけという場合、法定相続では母親が2分の1、2人の子供はそれぞれ4分の1を相続することになる。しかし、自宅を分割することはできないので、売却して流動資産化しなければならなくなる。しかし、自宅のほかに預金などの流動資産が一定以上あったとすれば、自宅を母親に遺し、預金などを2分の1ずつ子供が相続するなど、状況に応じた分割が可能になる。こう考えると「財産がないから相続が簡単」とは言えないことがわかるだろう。

「兄弟の仲のよさ」は、経済状況や配偶者などによって移ろいやすいもの。「うちは長生きの家系だから」と安閑と構えているのではなく、親が健康なうちに自分の財産をどう使ってほしいのかを聞き取りなどして、法律的な手続きを済ませておくことが大事なのだという。

 本書ではほかにも
・親の面倒を見たら遺産の上乗せアリ?
・遺言さえあればすべてOK?
・相続放棄したら借金はなくなる?
などの疑問にも明快に回答。これらの疑問がなくなるだけでも、相続についてのとっつきにくさがやわらぐはずだ。

■「とりあえず母さん名義に」という判断で、相続税が2倍に!

 本書が取り上げている事例のなかでも、とくにインパクトが大きいのは「“とりあえず母さん名義に”で相続税が2倍!」になってしまうというケースだ。

【パターンA】
 たとえば両親と子2人という家族構成で、財産は父と母が1億円ずつ持っている家庭。先に父が亡くなったとき(一次相続)、2人の子は遺産相続せず、母がすべてを相続したとする。この状態が「とりあえず母さん名義に」だ。この場合、一次相続での子の相続税はゼロだが、母親が亡くなったとき(二次相続)、ひとり1億円ずつ相続することになり、相続税は1人当たり1670万円、2人合わせると3340万円を支払うことになる。

【パターンB】
 Aと同じ家族構成、資産状況で、一次相続で母が1億円、子2人が5000万円ずつを相続するパターン。母が亡くなった二次相続で、子が1億円ずつを相続する場合、ひとりの子供が負担する相続税は、一次相続で315万円、二次相続で385万円になる。一次と二次を合計しても、1人当たり700万円、2人合計でも1400万円という相続税になる。

 AとBのパターンを比べてわかったように、財産の組み替えが大きく行われる一次相続の際に二次相続まで考え、どのように遺産を分割するかによって、相続税は2倍以上変わってくるのだ!

 本書は、賢く相続するための知識を具体的な数字を挙げて解説してくれる。そこに表れる数字の差は、どれもかなりの説得力を持ち、衝撃的だ。ほかにも「生前贈与」の罠や相続税徴収のための税務署の徹底した姿勢なども紹介されていて、相続の問題をおざなりに考えていてはいけないことを強く示唆している。

 相続には「お金」と「生死」の話がつきもの。だから、どうしても口にするのを避けたくなるものだが、自分にとって一番身近な人といつまでも変わらない付き合いを続けていきたいのなら、機会を見て話し合うことも必要だろう。この夏、お盆に帰省する人は、家族ときちんと向き合うきっかけにしてはどうだろう。あまりにがっかりな“残念な相続”をしてしまわないために、この1冊を役立ててほしい。

文=井上淳