小田和正から田中角栄まで、なぜアノ声は人に響くのか。声を変えれば人間関係がうまく行く!

ビジネス

公開日:2018/8/3

『人生は「声」で決まる』(竹内一郎/朝日新聞出版)

 仕事のパフォーマンスを高めたい。家族や友人とのコミュニケーションを円滑なものにしたい。そんな思いを抱いている方に大いなるヒントとして手にとってもらいたいのが『人生は「声」で決まる』(竹内一郎/朝日新聞出版)だ。

声とは、私たちが人生をよりよくするために、思い通りに活用できるツールである。

 著者の竹内一郎氏は、そう言いきる。社会的にも話題になった『人は見た目が9割』をはじめ、「非言語情報」を重視することを提案してきた著者が、現代社会の盲点としてあらためて指摘するのが「声の重要性」だ。なぜ声が大切なのか? どうすればよい声が身につくのか? 本書がひもとく声の大切さの一部を紹介していこう。

■人は声の力で動かされている

 仕事においても、家庭や友人関係においても、われわれは「声」を介して情報をやりとりしている。そればかりでなく、発する声の大きさやトーンの違いで、そのときどきの気持ちのありようが、相手に伝わっていたりもする。現在、情報のやりとりはメールで行う機会が増えたとはいっても、人と人とがコミュニケートするうえで声が非常に重要な役割を果たしていることは間違いない。

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 その声の使い方次第で、受ける印象はガラリと変わると著者は指摘する。

 たとえば想像してみてほしい。テレビ通販でお馴染みの「ジャパネットたかた」の高田明・前社長の声が、あれほど押し出しが強くて、聞く人の心を興奮させなかったら、九州・佐世保にある会社が、全国で誰もが知るテレビ通販ナンバーワンの規模になり得ただろうか? この疑問に「No」と自信を持って答えられる人は少ないはずだ。

 同様に、「ドラえもん」の声を務めたのが大山のぶ代でなかったら、「ドラゴンボール」の悟空の声が野沢雅子でなかったら、どちらもこれほど国民的に人気のあるキャラクターになり得ただろうか? という疑問にも、「No」と答えられる人は少ないはずだ。声の印象が人の心に働きかける力が、いかに強いものなのかが改めてわかるのではないだろうか。

 では、「いい声」というのはどうすれば身につくのだろう。著者は、「単純にいい声と悪い声があるわけではない」と、一旦その答えを保留する。

書家が「書は人なり」、文筆家が「文は人なり」というように、「声は人なり」。(中略)あえていうならば、「これが私の声です」と堂々と発すること。それが肝要だ。

 大切なのは「相手にきちんと伝える気持ち」を持って声を発することだという。その対極に位置するのが、駅のアナウンスや電話セールスの話しぶりだという。この対比で、あなたが話すときに何を大切にすればよいのか、ヒントが見えてくるのではないだろうか。

■自分の声は変えられる!

 本書の後半では「豊かな声をつくる術」をメンタル編とテクニカル編とに分けてくわしく解説している。

 メンタル編において興味深いのは「リポート・トークとラポート・トーク」の違いの説明だ。これは言語学者のデボラ・タネンによる分類だ。

・リポート・トーク:情報を伝えるのが主な目的となる話
・ラポート・トーク:信頼関係を築くのが主な目的となる話

 目的が違うので、リポート・トークでは、客観的、論理的に話そうとするし声も張るのだが、自然とラポート・トークでは普段よりも柔らかく、膨らみのある声になる人が多いという。普通は無意識に使い分けているものだが、2種類

の話し方があることを知っているだけで、その場に応じた話し方のチョイスができるようになり、豊かな声が身についていくという。

 ほかにも「間のとり方」「リズムのよしあし」「場に応じた声の大きさ」など、豊かな声に近づくためのヒントが紹介されているので、ぜひ実践にいかしてもらいたい。

 さらにテクニカル編では、「声が出る仕組み」の説明に始まり、リラックス・姿勢・呼吸の基本が具体的に解説されている。「息の吸い方・吐き方」「吐くときの心得」「みぞおち・お尻の活用」など、細かい体の使い方や意識の仕方について丁寧に解説されているので、参考にして取り組んでもらいたい。

 私たちが普段なにげなく発している声。その声の出し方や話し方を少し意識して変えることができれば、人とのコミュニケート力が上がり、仕事のパフォーマンスや人間関係もよくなる。そう簡単なものだろうかと眉唾に感じてしまう人もいるかもしれない。だが、声がなければ、他者とのコミュニケーションが決定的に取りにくくなるのは間違いのない事実。人間関係のなかで、これだけ大きな役割を果たしている自分の声を、この機会に見直して、豊かな人間関係を手に入れてはいかがだろうか。

文=井上淳