映画公開間近! 可愛い座敷わらしが、家族の絆を強めるハートフルストーリー
公開日:2012/3/20
父親の転勤で東北に引っ越すことになった高橋一家。市内のマンションを借りると思っていたら、なんと父親が見つけてきたのは築103年の古民家だった。そこにあるのは広い土間、囲炉裏、ぼっとんトイレ、庭、そして…座敷わらし。
まずこの高橋一家がいい。お父さんはお調子者で空回りするタイプ。お母さんは現実的。中学生の長女はその年頃にありがちな友人関係に悩み、小学生で喘息持ちの長男は過干渉気味の母親にちょっとウンザリ。おばあちゃんは夫を亡くしてから、ちょっとぼんやるすることが多くなって、もしかして認知症の先触れでは──という5人家族。
何でも話せるほど仲がいいわけではなく、互いに不満もあるけど、かといって家庭崩壊だの別居だのという事態にはならない、つまりはごくごく平均的な一家なのだ。平均的だからこそ、彼らの持つ悩みやすれ違いはとても身近でリアルで、なんだか身に覚えもあったりして、ついつい感情移入してしまう。物語はこの5人それぞれの視点で語られるので、それぞれが何を考えているかがダイレクトに分かり、読者だけが「神の目」で何が起きているかすべてが見えるという仕掛け。
座敷わらしはちょこちょこ顔を出す。四歳児くらいの見た目で紺絣の着物。おかっぱの髪をちょんちょりんに結んでいる。と、と、と、と走り、「ふわぁ」と息を吐き、「きゅい」と喜ぶ。この描写だけでのたうちまわるほど可愛いのだが、高橋家の面々も、いつもこの子が見えるわけではない。見えたり見えなかったり、幽霊だと思ったり、近所の子だと思ったり、あの世からのお迎えだと思ったり。
それが次第に「居る」ということが分かるにつれ、高橋家に変化が起きる。それまで彼らの悩みは自分ひとりの問題だった。それが座敷わらしの存在が「家族の問題」となり、今までなかった会話や協力が生まれるのだ。そしてそれが5人それぞれの変化にもつながっていく。
座敷わらしの〈正体〉がわかるくだりは切ない。けれどそれが高橋一家の「当たり前過ぎて気づかなかった幸せ」を気づかせてくれる。いるのが当然と思っていた家族を、もう一度正面から大事にしたくなる小説だ。そして、もしかしたらこの家にもいるのかな、と考えてしまう。いるのなら言ってあげたい。ここにいていいんだよ、一緒に遊ぼう、と。
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