目の前で母親を惨殺された少女は、復讐を誓う。驚愕のラスト! 実写化もあり!? 『猫弁』著者の渾身の現代ミステリー

文芸・カルチャー

公開日:2018/8/9

『赤い靴』(大山淳子/ポプラ社)

 大山淳子は2012年の小説家デビュー以来、ベストセラー街道を突っ走ってきた作家だ。吉岡秀隆主演のドラマ版で知られる累計40万部突破の「猫弁」シリーズをはじめ、10万部突破の『あずかりやさん』、今年6月に沢尻エリカ主演で映画化された『猫は抱くもの』などなど、エンターテインメントのツボをおさえた作品で数々のヒットを飛ばしている。

 8月3日に刊行された最新作『赤い靴』(ポプラ社)は、そんな華々しいキャリアのひとつのピークとなりそうな渾身の長編ミステリーである。

 7歳の誕生日を祝うため、北軽井沢の別荘を訪れた早乙女葵は、その夜、目の前で母親を惨殺される。暴漢に襲われ、意識を失った彼女を救ったのは、山小屋でシベリアンハスキーと暮らす謎めいた男、櫂(かい)だった。

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 人里離れた山の中で、櫂と共同生活を送ることになった葵は、憎むべき「鬼」を倒すための知識や技術を、日々身につけてゆく。サバイバル技術のみならず、語学や自然科学にも精通した櫂の手ほどきによって、少女がたくましく成長してゆく姿を描いた第1章は、力強い自然描写も相まって非常にドラマチック。ここだけずっと読んでいたい、と思わせる魅力がある。

 しかし4章からなるこの作品は、2章目以降がいわば本題である。10代後半となり、美しき復讐者へと成長を遂げた葵は、山を下り、憎むべき「鬼」のもとへ迫ってゆくのだ。母親を殺した真犯人はどこにいるのか。葵に手を差し伸べた櫂とは何者だったのか。多彩な登場人物の運命がリンクし、予想外の結末へとつながってゆくストーリー展開は圧巻の一言。若き精神科医・椎名の手記を織り交ぜた作品構成や、小道具「赤い靴」の用い方も巧みだ。読み出したらページを繰る手が止まらない、文字どおりの徹夜本である。

 アレクサンドル・デュマの『モンテ・クリスト伯』を筆頭に、古来復讐を扱った物語には名作が多い。罪と罰、絶望と希望という人間ドラマの主要テーマが凝縮されているからだろう。この『赤い靴』はそうした流れを受け継ぎつつ、大山淳子にしか書けない現代の復讐ミステリーに仕上がっている。実写化された際のキャスティングを妄想しながら読むのも楽しい。

 過酷な運命を与えられたヒロイン、早乙女葵。彼女の人生に待ち受けているのは、どんな光景なのか。ぜひその目で確かめてみていただきたい。

文=朝宮運河