この夏、海外旅行に行けない人に朗報。世界33カ国の人たちの笑顔を集めたフォトエッセイがスゴイ!

文芸・カルチャー

公開日:2018/8/12

『じゃ、また世界のどこかで。』(近藤大真/KADOKAWA)

 破顔一笑──。文字通り、顔をくしゃくしゃにして心からの喜びを表した笑顔。世界33カ国の人たちの、飛び切りの笑顔に出会いたい人におススメの1冊が、フォトエッセイ『じゃ、また世界のどこかで。』(近藤大真/KADOKAWA)だ。

 本書は、Lovegrapher&Photographerの著者が、2016年8月から1年半をかけて世界を巡った、旅の記録だ。大学在学中に、写真家になる意思を固めた著者は、就活を放棄し、大学卒業後に中学生レベルの英語、100万円の資金、ミラーレスカメラと現地の人々にプレゼントするためのチェキ(インスタントカメラ)を片手に、世界の人たちの笑顔と出会う旅に出る。

 そこで出会った人々との思い出や、迫りくる金欠危機をはじめとする苦労談、途中、1カ月間だけ合流した恋人とのラブラブな2人旅などを、写真と文章で綴っている。

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 レイアウトは、写真9割、文章1割というバランス。コミカルな文章が楽しめる一方で、多くの写真たちが、より雄弁に著者の旅の思い出を語ってくれる。

 その魅力はなんといっても、全ページに躍動する、訪問地で出会った人々の素敵な笑顔の数々だ。著者はまず、現地の人たちにチェキで撮ったポートレイトをプレゼントしてから、自分用の撮影をしたようだ。そのためか、初対面で言葉もほとんど通じていないにもかかわらず、破顔一笑の笑顔の数々が、本書を埋め尽くしている。

 筆者にもカメラマンの知り合いが数名いるが、みんな口々に、心からの笑顔を引き出すことの難しさを語る。その意味からも、奇跡的な笑顔にあふれているのが本書なのである。

 もちろん笑顔だけではない。ウクライナのカップル向け絶景スポット「愛のトンネル」では、集まるカップルたちのまばゆいばかりのツーショットの数々、ボリビアの「ウユニ塩湖」(雨期になると湖面全体が天空を映す鏡となる)では、プロポーズするカップルたちを、幻想的な空間の中に刻み込んだ。

 愛を写し撮るLovegrapherを自称する著者の、真骨頂ともいえるショットの数々もしっかりとちりばめられている。

 苦労談もさまざまにあって、いったん帰国せざるを得ないようなケガもするし、路上販売のお金を盗まれるし、飛行機に乗り損なうことも度々で、トラブルには事欠かない様子が書かれている。実際、海外旅行ではその国の光と闇を目にすることになる。きっと、資金が潤沢ではない世界旅行はさぞかし苦労の連続だっただろう。本書を眺めていると、その旅の苦労も思い出のひとつのように感じられるのである。

 というのも、そんな苦労談を綴るテキストがあっても、その周囲があまりにハッピーな写真だらけだからだ。子供から老人まで、学生、お店のおじちゃん、おばちゃん、軍人さん、ストリートパフォーマー、少数民族の人たちまでもが、著者の向けるカメラにとびっきりの笑顔で応えている。

 それらはいわば、笑顔を撮りたいというパッションのメタファーでもある。圧倒的なそのエネルギーの前では、どんな苦労も吹き飛んでしまうのではないだろうか。

 そんな著者自身の笑顔も、本書には多数出てくるのだが、これがまた、まさに破顔一笑ものばかり。カメラマンが撮影前にこんな笑顔を見せてくれたら、きっと、被写体のみんなもつられて笑ってしまう。そんな見事なリーディング・スマイルなのである。

 きっと多くのカメラマンに真似できない、著者ならではのスキルが、この笑顔にあるのではないか、そう思わせる本書は、読む人の心を一瞬で癒やす、セラピー本にもなるだろう。

 この夏、海外に出る方はそのお供に。そして、予定がない方は本書でぜひ、世界中の人たちの笑顔を巡る旅に出かけてもらいたい。

文=町田光