盗まれるから電子マネーにしよう。無電化のアフリカの農村で電子マネーを始めたワケ

ビジネス

2018/8/20

『20億人の未来銀行』(合田真/日経BP社)

 あらゆるもののデジタル化が進んでいる。お金もしかり。FinTechというテクノロジーを駆使した金融サービスに注目が集まっているが、なんと電気の通っていないアフリカの村に、電子マネーを導入した人がいる。それが『20億人の未来銀行』(日経BP社)の著者、合田真さんだ。

 合田さんは日本植物燃料という会社の社長だ。そう、ITや金融とはまったく関係ない。そんな合田さんがどうしてアフリカのモザンビーク共和国の貧しい農村に、電子マネーを展開することになったのだろう。

 日本植物燃料は、バイオ燃料の製造・販売をする会社としてスタートした。バイオ燃料とは、植物から作った燃料のこと。その燃料のもととなる植物の栽培地として、モザンビークを選んだのだ。

 まずは、作った燃料の販売先としてモザンビーク国内をメインにすることにした。海外に売るには採算がとれるほどの生産量がなかったし、モザンビーク国内であれば石油燃料よりも安く販売できるからだ。

 しかし、モザンビーク国内にはバイオ燃料の市場もインフラもない。だから、それを自ら作り出さねばならない。合田さんたちは、製粉所を顧客として開拓するとともに、無電化の村に電気を届けるサービスを始めた。現地の3つの村にコンビニのような店舗を作り、発電機をおいてバイオ燃料で電気を作る。そして、充電した電気ランタンの貸し出しや、冷えた飲料や氷の販売をする。結果として、これにより村人の生活水準はかなり高まったそうだ。

 ところが、一筋縄でいかないのがアフリカである。帳簿と現金を突き合わせると、毎月現金が足りない。店舗の売上がどこかへ消えてしまうのだ。店員である真面目なモザンビーク人に尋ねると「これは妖精のせいじゃないかと思う」「アフリカは妬みの文化。だから、この店を妬んでいる人たちが、呪いをかけている。呪いをかけられると、豆粒みたいな妖精が入ってきて、お金を持っていく」と言われ、「対抗できる白呪術師を知っているから、紹介しようか?」と聞かれたという。

 カメラによる監視など村の人たちを疑うようなメッセージを発信することは、今後もこの村で事業をやっていくつもりであるから避けたい。ならばいっそのこと、現金を使わなければいいのではないか。そこで出た結論が、電子マネーシステムの導入だったというわけだ。

 電子マネーがもたらしたのは、妖精の呪縛を解くことだけではない。村人に、電子マネーを貯蓄として使用する者が出てきたのだ。もともと、この地域の人々は銀行口座を持っていないし、近くに銀行もない。手元に現金を置いておくよりも、全財産を電子マネーに変えてしまった方が安全ということに気づいたようなのだ。

 そうなると、今度は個人のお金の流れや生活が見えるようになる。そのことが、銀行業としての可能性を広げてくれた。例えば、電子マネーの履歴データから、ある農民を「定期的に収入があって、あまり無駄遣いをしない人」とみなせれば、それが信用情報として機能し、融資を可能にする。一方で、お金を計画的に使うことができない人に対しても、アドバイスを行うことで、よりよい暮らしに導ける可能性がでてくる。

 こうして、アフリカの貧しい農村地域で、電子マネー経済圏が誕生した。一部の人に対しては小規模の融資を行うことも始めており、生活を改善していく例もすでに出ている。

 合田さんが目指しているのは、「新しい仕組みの銀行」だ。世界には貧困状態の国や地域があり、戦争や内戦、自然災害などの直接的な原因が取りのぞかれたとしても、貧困を抜け出すのは難しい。それはなぜなのか。どうしたらその不条理をなくせるのか。不条理を作り出しているひとつの要因に、合田さんは現状の金融モデルをあげる。金利で稼ぐ金融モデルは今の時代に合わない。これに代わる新しいお金のものがたりを作ることが、不条理を解決する一手になると主張する。お金のものがたり、金融の歴史や問題点については、本書の1章にまとめられているので、参照してほしい。

 FinTechやお金とは何かとか、アフリカで事業を起こすとか、やる価値のある仕事にどうやって出会うかとか、本書がカバーする範囲は広い。読めばきっと何かを得られるだろう。

文=高橋輝実