この恐竜本は映画並みのドライブ感で一気読み必至! 恐竜と鳥の姿を重ねてみると…

スポーツ・科学

2018/8/19

『鳥類学者 無謀にも恐竜を語る』(川上和人/新潮社)

 この夏、某ハリウッド映画を観て恐竜に興味を持ち、関連本を書店でぱらぱらめくってみたものの、なにやら専門用語の連発にそっと閉じてしまったという人もいるだろう。科学書というのは、いくら「読みやすい」と宣伝文句にあったところで、実際はある程度の知識や耐性がなければ太刀打ちできないこともあるものだ。

 しかし、本書『鳥類学者 無謀にも恐竜を語る』(川上和人/新潮社)に関しては、文字通り「読みやすい」ことを保証したい。著者は農学博士にして、国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所主任研究員(長い…)の気鋭の鳥類学者。そして本書の主題は、「鳥類と恐竜の緊密な類縁関係を拠り所とし、鳥類の進化を再解釈することと、恐竜の生態を復元する」ことであるという。

「お、おいちょっと待て、どこが読みやすいんだ、バリバリに堅苦しい予感がするぞ…」と身構え、またしても本を閉じてしまう前に、もう少しだけ読み進んでほしい。先に引用した次の行では、このように書かれている。

ただし、私はあくまでも現生鳥類を真摯に研究する一鳥類学者である。おもむろに鳥を捕まえ、ことごとく計測し、容赦なく糞分析し、美女をこよなく愛する中肉中背の研究者だ。

「…ん? えーと、どういうこと?」と思うだろう。

 少し読み進んで、“くれぐれもいっておくが、これは教科書的恐竜本ではないことを忘れずにいてほしい”、“恐竜の真の姿が知りたければ、ぜひとも他社の図鑑を片手に読み進めてほしい”という身も蓋もない記述に差し掛かる頃には、著者の一風変わった、そして科学者らしからぬ文体にハマり始めるだろう。本文の他にも、興味深い小ネタが満載の欄外コラムは必読だ。ちなみに著者は、『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』というアグレッシブなタイトルの本もベストセラーとなっている【レビュー記事はこちら

 ニヤニヤ、時には噴き出しつつ、気楽に読み進めることができ、それでいてしっかりと知的好奇心を満足させてくれる科学エッセイの、待望の文庫化である。

■鳥類学者は妄想する。その内容は…?

 近年の羽毛恐竜の発見により明らかになってきたのは、「鳥は恐竜の子孫である」ということだ。鳥と恐竜との境界が曖昧になってきたことで、過去生きていた恐竜に対して鳥類学者が絡む余地が生じ、かくして著者はその鳥類学者としての見地から、リアルな恐竜の生活を想像、あるいは妄想していく。

 たとえば、恐竜の巣について。見つかっている巣の化石のほとんどは、地上に作られているものだ。そのため、恐竜は基本的には地上に巣を作っていたと考えられている。しかし、本当にそうだろうか? 鳥の先輩である恐竜なのだから、木の上に巣を作っていてほしい、と著者は考える。恐竜は、もっとさまざまな場所に営巣していたのではないか?

 鳥類は進化の過程で、巣を作りやすいが敵に狙われやすい地上から、木の洞、木の枝へと営巣場所を移していったという。そこから恐竜が樹上に巣を作る条件を推測すると、小型の、食われる側の恐竜であることが条件となる。食う側や大型恐竜なら、地上の巣でも十分に防衛できるからだ。さらに、巣材を持ち運び、それを組み上げられるような細長い形の口をしているものといえば、ふさわしいのはラプトル類なのでは、と著者は考察している。

■恐竜は、今もそこにいる

 他にも、恐竜の色は、鳴き声は、渡りをしたのか…? など、鳥類学者としての興味は多岐に及び、筆も軽やかに冴えわたる。そして時に暴走(?)する。化石だけでなく、鳥類をはじめとする現生の動物などからも推測を重ね、恐竜の生態を想像していくあたり、著者の面目躍如といったところだ。

 かつて生きていた恐竜たちをこの目で見ることは、もちろんできない。だが、私たちのすぐ身近にいる鳥たちこそ、その直系の末裔なのだ。本書を読んでから空を行く鳥を見れば、羽毛や二足歩行といった当たり前のようなことですら、恐竜から受け継いだ遺産としてロマンをかき立てられるだろう。

 笑わされながらも、いつの間にか数億年の進化の歴史を概観できている。これは一味も二味も違う「恐竜本」なのだ。

文=齋藤詠月