英語のアルファベット、その“深すぎる”ルーツ 語源で驚く英語の世界

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公開日:2018/8/23

 多くの日本人は、中学校に入るあたりから「英語」の学習をスタートするが、英語の習い始め、例えば「そもそもなぜ『アルファベット』というのだろう?」といったような、英語に対する「素朴な疑問」を抱いたことはないだろうか? この夏刊行された『語源でわかる中学英語 knowの「k」はなぜ発音しないのか?』(KADOKAWA)は、学校では教わらない英語の意外な世界が楽しめる“タメになる”一冊だ。


 今回の記事では、英語で習う筆頭要素「アルファベット」をセレクト。この「アルファベット」というもの、実は調べれば調べるほど興味深い話があり、英語の新たな面白さが垣間見える。その成り立ちや歴史背景をわかりやすく説明しよう。

■そのルーツは「フェニキア」にあり!?

 英語を最初に学習するとき、まずはじめに「アルファベット(Alphabet)」の形と読み方を習います。とはいえ、中学生のときには、このアルファベットがいったい何なのか、そもそも何に由来している言語なのかなど、知るよしもなかったのではないでしょうか。

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 実は、アルファベットの「アルファ」はギリシャ文字の最初の「α(アルファ)」のことで、「ベット」は2番目の「β(ベータ)」のことなのです。ギリシャ文字は、物理学や数学、化学、生物学の分野でよく用いられています。



ギリシャ文字の使用例(脳波の種類)/画像・図:shutterstock

 では、その「アルファ」という言葉はどこから来たのでしょうか? 今からおよそ3000年前、イギリスのブリテン島やアイルランド島の住民には文字の文化がありませんでした。それどころか、当時はギリシャですら片田舎の文明後進国だったのです。

 その頃、文明先進国だったのはエジプトやメソポタミアといった中東付近。西暦前9世紀頃、文字を持たないギリシャ人は、地中海の西の沿岸に住んでいたフェニキア人から文字をもらってギリシャ語を作りました。

イラスト:shutterstock/図:原島広至

 フェニキア文字の「アーレフ」には「牛」という意味があり、牛の頭の形をかたどって文字を作りました。そして、このアーレフが少し変形されてギリシャに伝わり、Aの文字になりました。アーレフという文字名はなまって「アルファ」になりましたが、もはやギリシャ語では「牛」の意味はなくなりました。

 このギリシャ文字が後に、エトルリア人を経て、文明の低かった古代ローマに伝わり、ローマ人が話すラテン語(つまりローマ人の言語)を表記するためのローマ字になりました。そして、やがて英語でも用いられるようになります。

 では、「ベット」に話を移しましょう。アルファベットの「ベット」の意味は何でしょうか? ギリシャ文字の「ベータ(β)」はフェニキア文字の「ベート」から作られました。このベートは「家」という意味なので、アルファベットとは、実は「牛家」でした。とはいえ、英語ではまったく当初の意味は意識されていません。

イラスト・図:原島広至

 フェニキア語はセム語族に属し、同じセム語族のヘブライ語ともよく似ています。文字についても、古代のヘブライ文字とフェニキア文字はほぼ形も共通していました。

 ヘブライ人は、バビロニア帝国との戦いに敗れてバビロンに捕虜として連れ去られた後(バビロン捕囚)、文字の形もバビロンで用いられたアラム語の影響を受け、それぞれ四角い形に変わりました。こうして現代のヘブライ文字ができたのです。

イラスト・図:原島広至

 ギリシャ文字の「α」や「β」は小文字で、ギリシャ文字の大文字はローマ字と同じくA、Bです。ちなみに、古代のアルファベットは大文字だけで、ギリシャ文字の小文字は、西暦9世紀以降に大文字を元にして書きやすいように改良して作られました。

 世界の多くの文字、ロシアのキリル文字やインドのデーヴァナーガリー文字、さらにアラビア文字もすべて、実はフェニキア文字の子孫なのです。

『語源でわかる中学英語 knowの「k」はなぜ発音しないのか?』
原島広至/KADOKAWA

英語の先生に教えてもらえなかったこと、この本で丸わかり!――August(8月)は「ローマ皇帝アウグスト」に由来するといった語源にまつわる話や、makeを「マケ」ではなく「メイク」と読む理由、knife(ナイフ)のkを発しない理由、といったような「発音」についての疑問、また、なぜbe動詞はam, are, is のように違うのかといった、中学で英文法を習ったときに漠然とした疑問を抱きながらも「覚えなきゃ」とただひたすら暗記していたようなトピックを、英語の語源からわかりやすく解説する一冊。