忙しいあなたには「上質な」ホラーを。60秒でキマる瞬殺実話怪談集

文芸・カルチャー

2018/8/23

『瞬殺怪談 刺』(平山夢明ほか/竹書房)

 上質なものは大抵、極めて洗練されているものだ。新鮮な魚はシンプルに刺身で食べたいのと同じように、上質な実話は、装飾のないシンプルな状態の方が読む者の皮膚感覚に鋭く突き刺さるのかもしれない。

『瞬殺怪談 刺』(平山夢明ほか/竹書房)は、そんな「極上極短」の実話怪談集だ。本書に収録されている157の実話怪談は、短いものはわずか数行から長くても2ページ以内の短さで、「60秒で読める」というのが大きな特徴だ。贅肉を削ぎ落して「怖い部分」だけを煮詰めたような実話怪談は、短文でも十分に怖い。ほんのちょっとした隙間の時間に薄ら寒い気分を味わえるので、涼を求める忙しいあなたにもおすすめだ。

■道端に落ちていたスマートフォンから――

 帰宅途中の路上でスマートフォンを拾った話。

 そのスマホにはロックが掛かっておらず、悪いなと思いながらも興味本位で画像フォルダなどを漁っていく。どうやら、持ち主は可愛らしい女性のようだ。画像の中には「秘密」と名付けられたフォルダがあり、それを開くなり彼は後悔した。そこには、異様なモノ――真っ黒い人影に両目と歯が剥き出しになって白く浮き出ている――が写っている。嫌なものを見てしまったと慌てて閉じた瞬間、その電話が鳴り響く。「もしもし、このスマートフォンを落とした人ですか?」と電話に出た彼だが…。

「あんた見たでしょ。黒い奴の画像。良かったぁ、助かった。それ、●●●●●●●●」そう言って電話は切れた。

 電話口で彼が聞いた言葉は、ぜひ本書で確認してほしい。実話ならではの想像しやすいシチュエーションが、読後の恐怖を際立たせてくれる。

■ひとり暮らしのトイレにいたのは――

 Jさんは新歓コンパから帰宅した途端に酔いが回り、顔を便器に近づけて嘔吐した。どんなに吐いても治まらず、苦しい。嗚咽を漏らしながらトイレにうずくまっていると、誰かが優しく背中をさすってくれていることに気づいた。

ひとり暮らしなので部屋の中に自分以外の者がいるはずがない。が、なぜか少しも怖く感じなかった。
ただ優しくさすってくれるそのことに、ぐしゃぐしゃに頬を濡らしながらJさんは何度も何度も頭を下げたという。

「世の中には優しい霊もいるものだ」と、読後私はほっこりとした気分にさせられた。しかし、奇妙な感触なのだが、短文なので2度目、3度目と読み返すと、そのたびに違った後味が残るようになった。「帰宅直後に気分が悪くなったのは霊の仕業で、これは非常に厄介な霊なのではないか?」とか、「霊はひとりではなく、善い霊や悪い霊がひしめき合っている部屋なのではないか?」などいろいろ考えを巡らせ、果てには、「そもそも酔いによる幻覚なのではないか? 飲み過ぎはよくないという教訓?」とまで深読み(迷走?)してしまう始末。

 本書に収められた怪談は「極短」でシンプルな構造だからこそ、気軽にページを開き、何度も読み返せる。そしてその度に違った読み方ができるという点も醍醐味であると感じた。

 人気書き手たちによる「瞬殺怪談」はその名の通り、一瞬にして「涼」のパンチを決めてくる。シンプルだからこそずしりと決まる恐怖に、半ば病みつきになってしまった。酷暑の中多忙な日々を送られているあなたに、ぜひすすめたい1冊だ。

文=K(稲)