凡人の凡人による凡人のための実話怪談集――すぐ隣にある不思議を集めてみると

文芸・カルチャー

公開日:2018/8/25

『凡人の怪談 不思議がひょんと現れて』(工藤美代子/中央公論新社)

 朝晩はだいぶ涼しくなってきましたが、昼間にはまだ少し暑さが残ります。まだまだ涼める程度に怖い話を聞きたいですよね。かといって、テレビをつければ背筋の凍るようなゾッとする話を取り上げたおどろおどろしい特番ばかり。レンタルDVDショップのホラーコーナーを探しても「血みどろの女が…」「絶対に解けない呪いが…」といった世にも恐ろしいものばかりで、ちょうどいい加減のものがなかなか見つかりません。

 そこでみなさんに紹介したいのは、『凡人の怪談 不思議がひょんと現れて』(工藤美代子/中央公論新社)。本書に収録されているエピソードは、「怖すぎてトイレに行けない、お風呂にも入れない」という類のものではなく、著者が実際に体験してきた、ひんやり涼めるちょっぴり怖くてちょっぴり不思議な話を集めたものです。

■学校の怪談――ナチュラル志向のほんわか実話系ホラー

 多くの方の母校につきものなのが怪談話。本書の著者も学生時代に経験したちょっぴりホラーな逸話をもっているといいます。それは学校のトイレに関する怪談話。とはいっても、トイレの花子さんによってあちら側の世界に引きずり込まれたりはしません。

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 あるとき、校舎2階のトイレにお化けが出るという噂が起こったといいます。そんな噂の真相を確かめるべく、勇敢な男性教諭が夜中に椅子を持ち出してトイレの個室の前でお化けを夜通し叱ったそうな。不思議な話ではありますが、幽霊も元々は人間だったわけで、きっと話せばわかるんですね。聞き分けのよかった幽霊は、その後…。

■卒塔婆が私を呼んだのよ――ちょっぴり哀愁誘う愛人の最期

 人間関係が呼んだ怪談話というのもドロドロしたものが多く、なかなかひんやりするエピソードが多いのではないでしょうか。著者の顔見知りに雅代さんという女性がいたそう。雅代さんは若いころ博多でホステスとして働いていました。とある会社の会長に見初められて愛人関係を築き上げた雅代さんは、年を取り会長との生々しい関係がなくなった後もその会長と食事に出かけることがあったといいます。

 会長も律義にそれに応じ、時折雅代さんとの逢瀬は続いていたそうですが、ある時からぱったりと雅代さんと会うことをやめてしまいました。身寄りの少ない雅代さんは、死んだときのためとお墓を会長に買ってもらっていたそう。霊はあちらの世界から親しかった人を呼び寄せるとよく言いますが、そんな墓地をふらっと訪れた雅代さんが見たものとは…。

 著者の工藤氏が経験する不可解な出来事は、普段だれもが経験しそうなちょっとした不思議ばかり。日常生活のすぐ隣にある不思議な体験を、みなさんも味わってみてはいかがでしょうか。

文=ムラカミ ハヤト