陰のあだ名は「愛人」。“無自覚エロス”で男たちを興奮させてフラれちゃう女子高生。新たな恋のお相手は?

マンガ

更新日:2018/8/27

『フラレガール』(堤 翔/白泉社)

 君の色気は胸焼けする――こんな強烈なセリフでフラれた少女漫画の主人公が、未だかつていただろうか。しかも女子高生である。幼少期からマリリン・モンローに似てると言われ、陰でつけられたあだ名は「愛人」。色気がだだ漏れすぎて男たちを無自覚に興奮させてしまうという、難儀な運命に生まれついたのが『フラレガール』(堤 翔/白泉社)の主人公・高校3年生の赤坂響だ。

 あり余る色気がコンプレックスって、なにそれ自慢かよと思う人もいるかもしれないが、元カレに惹かれた理由は「私がフランクフルト食べるだけで異様に興奮したりしないし ちょっとかがんだだけでヒューって言ったりしない」。開き直ってモテ道を邁進できる性格ならまだしも、そうじゃない。18年間、男たちの好奇と性的な視線にさらされて心地いいはずがなく、しかもようやくそうではない男に出会えたと思ったら、冒頭のセリフでフラれてしまう。外見で判断されて悲しい思いをするのは、美人だろうと不美人だろうと同じだ。

 そんな彼女に勢いあまって「愛人になってください!」と告白してきたのが、全力青春少年・大地。放課後デートに猫カフェに誘ったと思いきや、連れていかれたのは猫の集会所(+そこらで買ったお茶)。夜に突然呼び出してきたかと思えば、幻想的な工場の灯りを見せてくれ、地べたに寝っ転がって夜空を一緒に見上げてくれる。だからといって、色気がまったく通用しない超純情少年! というわけではなく、響の色気にあてられて人一倍鼻血を噴き出したりする超健全な高校生男児なのだけれど、これまでの男とちがうのは、色気だだ洩れの外見も込みで、響の内面も全部ひっくるめて好きになってくれたこと。そんな彼のまっすぐな想いにあてられて、響は傷ついた心を癒し、新しい恋へと踏み出していく。

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 見てくれのいいモテ女子が悪役に描かれがちだったのは、今は昔。「実はいい子」な内気女子が、それだけでヒロインになれる時代も終わったように思う。どんな外見だろうと性格だろうと、自分なりの矜持をもって、傷つきながらも懸命に生きる女子はかわいい。そしてそのかわいさを真正面から受け止めてくれる誰かに出会いたい。大地だけでなく、友人の豆子をはじめ、響のまわりに集まる子たちがみんなそれぞれいい子だ。「別にいいじゃん、モテてるんだから」などと蔑んだりしないし、響のよさをちゃんと見てくれている。それが本作の好ましいところのひとつだ。

 コンプレックスは人それぞれ。誰かを好きになれば誰だって不安になることは増えるし、自分に足りないところにも目が向いてしまう。それは響だけじゃない。大地も、そしてたぶん周囲にいる友達みんなも同じだ。それでも、大切な人と一緒にいるために、何ができるのか――。不器用カップルの初々しいいちゃつきを楽しみながら、ぜひとも今後を見守っていきたい。

文=立花もも