結婚願望ゼロなのに…。「婚姻届に判を捺しただけ」の偽装結婚、一体どうなる?

マンガ

更新日:2018/9/3

『婚姻届に判を捺しただけですが』(有生青春/祥伝社)

 大好きな人と結婚するのはもちろん喜ばしいことだ。だが、新婚生活はそんなに甘いものではない。というか筆者の場合、結婚1年目は夜な夜なスマホで「結婚」「つらい」と頻繁に検索していた記憶がある……。

 結婚は生活なので、二人で協力して、日常生活を成り立たせねばならない。だが、自分がこれまで「普通」だと信じてきたものが、相手にはまるで当てはまらない、なんてことがよく起こる。生活習慣や家事問題や親戚付き合いまで、二人で膝を突き合わせて話し合うべきことは山ほどあるのだ。

 結局、結婚3年目を迎えた今でも、結婚生活で一番大切なのは「妥協」と「歩み寄り」なのだと切に感じている。

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 有生青春のマンガ『婚姻届に判を捺しただけですが』(祥伝社)は、そんな結婚生活の苦悩と幸せがテンポ良く描かれたラブコメディだ。

 本書の主人公は、大加戸明葉・27歳。デザイン事務所に勤務しており、家と職場の往復の毎日だが、仕事が楽しくてたまらず、特に不満はない。親代わりの祖母に結婚をせっつかれるのが辛いものの、友人にも恵まれ、出会いも結婚も、特に求めていなかった。

 だが、そんな明葉の日常は、取引先のイケメン文芸編集者・百瀬 柊(しゅう)との出会いで一変する。なんと彼は、出会って30分で、明葉にプロポーズをしてきたのだ……!

 ただし、柊がほしいのは「既婚者」という肩書きのみ。とある理由から、わずらわしい世間の目を欺くため「限りなく他人な夫婦」として偽装結婚をしたいと言い出したのである。

 もちろん明葉は、そんな柊の戯言など一蹴する。あまりに腹が立ち、頭突きをお見舞いしたほどだ。

 しかしながら明葉は、親代わりでもある祖母が倒れて入院し、彼女の経営する小料理屋を守るため、急遽、300万円が必要な事態に追い込まれる。そこで婚姻届を担保に、柊から300万を借り、借金返済のあいだ「偽りの夫婦になる」人生最大の決断をするのである――!

 即席の偽装夫婦となった二人だが、面白いのは、彼らの新婚生活の悩みが、我々と変わらなかったことだ。例えば、鳴り続ける目覚まし時計がうるさい、洗い物ができておらず小言を言われる、お風呂上がりは真っ裸になれない等々……。

「お互いの私生活には干渉しない」ことが掟だった結婚生活だが、明葉は早々に限界を迎え、家を飛び出してしまう。

 だが、二人はその後、きちんと気持ちをぶつけ合い「主張」と「妥協」を繰り返し、お互いに気持ちの良い空間を作り上げていくのだ。そして、お互いの新たな一面や、知らなくていいことまで知っていくのである。

 偽装夫婦を約束した二人だが、お互いの譲れない部分は認め合い、悪い部分は謝罪し、協力が必要とされる場面では最大限に力を発揮する様子を見ていると、まるで本物の夫婦と変わりなく、相性はいいように思える。

 個人的に、夫婦として大切なのは、決して「共通の趣味」や「燃え上がるような愛情」ではなく、「いかに歩み寄れるか」だと痛感しているので、それができている二人はいい夫婦になると思うのだ。

 だが、夫となった柊の複雑な事情も気になるところ。突然始まった偽装夫婦の結婚生活は今後どんなものになるのだろうか? キュンとする展開であることを祈りつつ、続きを楽しみに待つことにしよう。

文=さゆ