遺伝的なサイコパスとして生まれた男は、どう生きればいいのか?

文芸・カルチャー

公開日:2018/8/29

『スケルトン・キー』(道尾秀介/KADOKAWA)

 サイコパス――。それは、生まれつき他人への共感能力や、恐怖を感じる度合いが低い人たちのことだ。メディアで取り上げられたり、ミステリ小説で殺人犯として登場することも少なくないから、“常人には理解できない存在”としてサイコパスを知っている人は多いだろう。本稿で紹介する『スケルトン・キー』(道尾秀介/KADOKAWA)は、私たちとは異なる感覚を持つサイコパスの内面を、なんと一人称小説の主人公として描く挑戦作である。

 物語は、スリリングなバイクアクションから幕を開ける。主人公の坂木錠也(さかき じょうや)はサイコパスで、“怖い”という感情を体感したことがない人間だ。彼は、自らの狂気を抑えるために、週刊誌のスクープ獲得の手伝いをしている。バイクによる追跡などで刺激を受けると、常人より低い心拍数を高めることができ、自らの狂気を抑えられるのだ。

 ある日、同じ児童養護施設で行動をともにしていた「うどん」こと迫間順平(はざま じゅんぺい)から連絡があり、そこで衝撃的な事実を告白される。かつて錠也の母親を惨殺した田子庸平という男が、刑務所から出所してきた「うどん」の父親かもしれないというのだ。

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 錠也は、かねてから自分の“あったかもしれないもう1つの人生”を奪ったこの男を恨んでいた。サイコパスは、自分のものが取られることに強烈な不快感を覚える。錠也の日常は、この日から大きく変わってしまう…。

 道尾秀介氏といえば、緻密に仕掛けられた“どんでん返し”に定評があるから、それを期待している読者も多いだろう。当然、本作にも“それ”はある。しかも、単なるサプライズではなく、サイコパスにとって最も残酷な事実――“遺伝”と密接に関わっているものだ。

 資産、容姿、才能、そして人格。子供は、親からさまざまなものを受け継いでいる。サイコパスとして生まれ落ちてしまった人間は、どう生きればいいのだろうか。どう足掻いても、人を殺してしまう運命にあるのか。『スケルトン・キー』は、逃れられない自分の性質と向き合う物語だ。

文=中川 凌