“遊んで暮らせる時代”がやってきたら、あなたはどうする?

文芸・カルチャー

公開日:2018/9/29

『未来職安』(柞刈湯葉/双葉社)

 遊んで暮らせる時代がやってくる――。実業家の堀江貴文氏は、『10年後の仕事図鑑』(堀江貴文・落合陽一/SBクリエイティブ)にて、こう断言している。どういうことかというと、多くの仕事をAIが代替し、国民に一定額の現金を支給するBI(ベーシックインカム)が導入されれば、好きで働いている優秀な人が高給をもらい、その他の人はBIのお金で遊んで暮らせる時代がやってくる…という話だ。毎日汗水垂らして働いている社会人からしてみれば、「そんなのまだまだ想像できない! 現実的じゃない!」と言いたくなるかもしれない。

 だが、本稿で紹介する『未来職安』(柞刈湯葉/双葉社)は、国民が99%の“消費者”と、1%の“生産者”に分かれた日本――まさに堀江氏が“予言”する世界をリアルに描くことに挑戦している。

 物語の舞台は、働く必要がなくなった時代でも需要がある、未来の“職安”。主人公の目黒は、とある事情から“生産者”をやっている女性事務員で、機械オンチの経営者・大塚さんや、所長(猫)とともに、大して来客もない職場でのんびりと働いている。彼女たちを訪ねるのは、国から生活基本金をもらい、労働から解放されているにもかかわらず、何らかの“働く理由”を持っている人たちだ。それは、高給取りの生産者への不満や、息子の結婚相手への見栄、自分のマンガを売りたい願望…などさまざまだが、どれも今の私たちが抱える悩みの延長線上にあるもの。彼女たちは、そんな彼らの気持ちをくみ取り、適切な仕事を斡旋する。

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 著者の柞刈湯葉氏は、自己増殖し続ける横浜駅を舞台にした『横浜駅SF』(KADOKAWA)でデビューした新進のSF作家。本作でもその想像力をいかんなく発揮し、今より少し先の未来を、ときに皮肉げに、ときに楽天的に描く。「これからの時代、どうなるかわからない」と言われるが、どんなに社会が変わっても、人のどうしようもない性質は変わらない。私たちは、これからもそんな自分に向き合い、それを乗り越えながら生きていくのだろう――。本作は、そんな風に思わせてくれる、希望に満ちた小説だ。

文=中川 凌