ついに新章『八雲立つ 灼』1巻発売! 12歳に転生した稀代のシャーマンと、底抜けにお人好しな相棒に襲い掛かる新たな敵とは?

マンガ

更新日:2018/9/3

『八雲立つ 灼』(樹なつみ/白泉社)

 2002年に完結した、累計600万部の人気マンガ『八雲立つ』(樹なつみ/白泉社)。愛蔵版刊行とともに新章「灼(あらた)」が満を持して連載開始したのは既報のとおりだが、待望の第1巻がこのたびついに刊行された。

“続編”と銘打たれるものに、ファンは期待とおそれが入り混じるもの。「あそこで終わっておいてくれればよかったのに……」なんて悔しさを抱いた経験をもつ人もいるだろうが、安心してほしい。世界観そのままで倍増のおもしろさ。ずいぶん前のことだから前作の内容を忘れちゃったなあ、なんて人も、改めておさらいしながら楽しめる――つまり新規読者にもたいへん親切な構成となっているのが、さすがである。

 妹の息子・布椎晃己(ふづちこうき)の担任に呼び出され、小学校に出向いた七地健生(ななちたけお)。出雲の旧家に生まれた晃己は、小6とは思えぬ貫禄でクラスメートはおろか担任までもが畏れを抱いているのだが、それもそのはず。宗主であり、稀代の巫覡(シャーマン)であった16歳の闇己(くらき)の記憶をそのまま残し、転生した姿なのだから。前作で七地は、闇己と前世からの縁で結ばれた相棒として、ともに“念”と呼ばれる敵に立ち向かってきた。

advertisement

 ときに怨霊、ときに神と化す念の正体は、負の感情が生み出すねじれたエネルギーの集合体。一般社会にはびこるそれだけでなく、布椎家に巣食う人間関係のねじれや闇己自身の孤独や絶望に呼応して巨大化していく。それに心身ともに打ち勝ち祓うため、必要なのが底抜けにお人好しで光のオーラを放つ七地の優しさなのだ。それは転生した闇己にとっても同じで、ふたたび活性化した念の正体を探るため2人は新たな旅に出る。

 かわいそう、と同情されて喜ぶ人はあまりいない。どこか高みに立って見下ろされているのがわかるからだ。けれど七地はちがう。彼は頻繁に闇己の人生をおもい「かわいそう」と口にするが、ただただ気持ちを寄り添わせ、我がことのように心を痛めている。その姿勢は相手が人間でなくても同じで、『灼』第1巻では、念と化した怨霊をまさかの同情で昇華(浄霊のようなもの)させるという離れ業をやってのける。

 本作でも、つっこみつっこまれ、ツンデレの応酬がくりひろげられる闇己と七地のやりとりは健在。それもまたファンにとって嬉しいところである(ちなみに、七地は35歳バツイチ。闇己との宿縁のせいか女性にフラれがちなところも変わっていないらしい)。

 変わらずにいてほしいところはそのまま、前作を経て成長し強くなった彼らの新たな戦いはパワーアップという、贅沢な新章。すべて祓ったはずの念がなぜふたたび活性化したのか、その原因らしい謎の男と少年――闇己に因縁のあるらしい彼らの正体は? いま一度彼らとともに“神話”に触れられることを光栄に思いつつ、次巻を待ちたい。

文=立花もも