同級生や親戚からのいじめ。病弱な母親を守るため紹介された「子ども専用ハローワーク」とは…『秘密のチャイハロ』

マンガ

更新日:2018/9/3

『秘密のチャイハロ』(鈴木おさむ:原作、桜倉メグ:漫画/講談社)

「1億円稼ぐ小学生になりたくはないか?」そんな扇情的なセリフがおどる『秘密のチャイハロ』(鈴木おさむ:原作、桜倉メグ:漫画/講談社)。放送作家の鈴木おさむ氏が原作をつとめ、子供たちの貧困という現代社会で無視できないテーマを扱っていることで話題の「なかよし」で連載中のマンガだが、何より注目を集めているのは息もつかせぬ衝撃的な展開。1巻を読み終わった率直な感想は「何これ何これ超こえええええ!!!」。これほんとに「なかよし」に連載して大丈夫なのだろうかと不安になるほど胸がえぐられ苦しくなった。

 主人公は小学4年生の愛川愛。スポーツ万能、成績優秀、性格もけなげでがんばりやというパーフェクトな少女だが悩みがひとつ。経済的に困窮している……端的にいえば貧乏なのである。父親は愛が生まれる前に借金を残して女と出奔、母は愛が4歳の時に階段から落ちそうになった愛を守るために怪我をして、右足が動かなくなり病気がちに。内職から小遣いをくれる母の手術費をためようと、愛は部活用のユニフォームを買うのも我慢している。が、少ない服を着回し、母の手作りアクセサリーで着飾る愛を、クラスメートは馬鹿にする。

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 お札を投げつけ、アクセサリーを踏み壊し、絵の具をぶっかけてくるクラスメートからのいじめもえげつないが、もっと底意地が悪いのが愛たちを世話する親戚の雪江だ。愛と母に与えられているのは屋敷の片隅にある物置小屋。家賃を払えない母子をいたぶり、家探しの末に愛の貯金を見つけ出して母に土下座させる。あげく「私が心優しい奥様でい続けるために一生不幸でいろ」と高笑いしながらその貯金を燃やしてしまう。鬼の所業である。

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 屈辱に涙を流しながら愛は思う。貧乏は、地獄だ。抜け出すために学校に最近赴任してきた華嵐先生から特別に紹介されたチャイハロ――チャイルド・ハローワークの面接を受け、冒頭のセリフを投げかけられるのだが、ここの社長がまたひどい。面接で、愛がどうしても食べられないゴーヤをはいつくばって丸かじりさせ(できたら3万円)、えずきながら食べ終えると「全部吐き出せ」という(これは100万円)。そんな非人道的な面接をどうにか突破する愛なのだが、与えられた初仕事は「同い年の少女がかわいがっている犬を殺処分する」ことだった……。

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 描写がとにかくつらい。だが、こんなの絶対ありえないよ!と言い切れないのがまたこの作品のおそろしいところなのだ。細部の描写を見るにつけ、こういう悪意ってわりと世の中に蔓延してるよね……と暗澹とした気持ちになる。だからこそ愛がこの過酷な環境をどう生き抜いていくか気になってしまうのだ。

 お金は必要だけど、どんなにお金を積まれても譲れない大事なものはある。人としてわりと当たり前の信念を貫こうとする愛を前に、現実は残酷に立ちはだかり、優しいと思っていた先生も、指導係の強(つよし)も、誰も味方してくれないどころか愛をさらなる地獄に叩き落す。一抹でいいからハートフルな展開がないものかと期待するも、すべて裏切られていくのがこの作品の肝だ。

 過去に何があったのか、歪んだ反骨心で君臨する社長と、愛は今後どのように対峙していくのか。それでも愛は優しさを忘れずにいられるのか。ひとたび読めば手を止めることは不可能な、まぎれもない衝撃作である。

文=立花もも

 

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