そこに居るだけで愛おしい。犬ってたまらん…。珠玉の「犬」エッセイ

小説・エッセイ

2018/9/3

『ああ、犬よ! 作家と犬をめぐる28話』(キノブックス編集部:編/キノブックス)

「犬」との忘れがたき思い出を、28人の作家が綴った1冊、『ああ、犬よ! 作家と犬をめぐる28話』(キノブックス編集部:編/キノブックス)。作家それぞれの「犬」の話は、どれも可愛くておもしろくて、そして切ない。

 古くから人間の生活に役立ち、今では家族の一員として愛される犬。池田晶子氏は、「こんなに愛おしい生き物がこの地球上に存在するものでしょうか」と書き、たまらない愛おしさの理由を、言葉を話さないことと、先に逝くとわかっている命の短さを挙げる。

 江藤淳氏は「犬は人の心を慰める理想的な存在だ」とし、その理由を「血がつながらず親子同然になれて人間の気持ちがわかりながら、犬は絶対的に人間ではない」と書く。

 宮本輝氏も、ハードボイルドの北方謙三氏も、犬に話しかけるときは素の自分で無防備である。犬は人の心を開放させてくれる。愛犬を前にすると、他人には見せられないほど顔の筋肉がゆるみ、声のトーンも上がるのは、愛犬あるあるだろう。返事はくれないけれど、そのまなざしと体温だけで人の心を慰めてくれる犬。犬は人間の気持ちを丸ごと受け止めて癒してくれる存在だと、しみじみと思う。

 忠犬ハチ公でも知られるように、犬は飼い主のことが大好きで忠実だ。道浦母都子氏の犬は、可愛がってくれた道浦氏の母が亡くなった後、家に上がりたがったので、遺影の前に連れて行くと、じっと見つめながら聞いたことのない声でウーンウーンと鳴き始めたというのだ。小川国夫氏の犬は生後4カ月で、道もわからないはずの17キロ余りの距離を歩いて帰ってきたという。

 犬の姿形に感心するのは村田喜代子氏だ。「寝ても起きても歩いてもどこを向いても、ああよくできていると犬のすべてに感心し、2年たっても見あきない」という。

 原田宗典氏は犬の従順さについて「病にかかって、ぐったりした犬を寒いだろうと廊下に敷いた毛布に寝かせるが、どうしても冷たいタイルの上に戻ってしまう」という。かつて廊下に上がって怒られたことを死の間際でも忘れない「犬」の純朴な姿に泣けたという。

 松浦寿輝氏の詩「without」は、ほんとうに切ない詩だ。犬と人間の距離感や心のつながりは、犬派あるあるだ。北原白秋氏の「こいぬ」は、飼い始めた頃の可愛い姿を思い出し、なつかしさで胸がいっぱいになるような詩だ。

 中野孝次氏が「うんこしようと力んでいるところさえ愛らしいのだからどうしようもないのだ」と書くように、どの作品からも、それぞれの作家が「うちの犬が一番可愛い」と思っていることが伝わってきて微笑ましい。犬の習性にまつわる向田邦子氏の「犬の銀行」や、畑正憲氏の「『話せば分かる』ってホント?」、藤子不二雄A氏の漫画など、あるあるあり、発見ありで、犬好きにはたまらない1冊だ。

文=泉ゆりこ