あなたに足りないものは哲学だ! 知的道具「哲学」の使用手引き決定版

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公開日:2018/9/4

『武器になる哲学 人生を生き抜くための哲学・思想のキーコンセプト50』(山口 周/KADOKAWA)

『武器になる哲学 人生を生き抜くための哲学・思想のキーコンセプト50』(山口 周/KADOKAWA)は、いわば哲学の使用手引きだ。著者は、哲学や歴史、文学などリベラルアーツ(人文科学)を専攻した経営コンサルタント。自らの実戦での活用体験から、過去の哲学者たちの考察を、「人」、「組織」、「社会」、「思考」の4つの使用用途別に整理することで哲学を我々の身近なツールとしたのだ。

■「人」に関するキーコンセプト

「私たちの人生に発生する問題のほとんどは人に絡んでいる。人の本性について考察し続けてきた哲学者たちの考察がよりよい人生を生きるためのヒントにならないはずはない」

 例えば「ツイテないよなあ、時代は良くないし、会社はあんなだし、やる気でませんよ…」というボヤキに対し、「君は逃げるばかりでアンガージュマンしないのかね?」と著者はサルトル流のツッコミを用いてコンセプトを説く。

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 アンガージュマンとはエンゲージメントのこと。自分を取り巻く世界に主体的に関われ、とする実存主義サルトルの主張だ。現実を自分ごとと捉え、良いものにしようとする前向きさこそ、人生を芸術作品のように創造しようとする態度だ、との著者の指摘にはハッとせずにはいられないだろう。

■「思考」に関するキーコンセプト

「哲学の歴史は、提案と否定の連続で人類が残した壮大な思考プロセスの記録として捉えるべきだ。それはものごとを深く鋭く考えるための突破口を我々に与えてくれる」

 例えばAかBかの二者択一に見える問題も、ヘーゲル流の弁証法に学べば、一見両立しないふたつの命題を統合的に解消できないか、と思考の枠組みを捉え直すきっかけを与えてくれるという。例えば、寺子屋型の個別教育か、同年齢編成で同カリキュラムの近代学校システムか、の比較においても、ITによって学校でも個別教育が可能、とすれば、進化と復古を両立させる「螺旋的発展」という解決策が生まれるという。行き詰った時の思考プロセスは哲学に学べるのだ。

■「組織」、「社会」に関するキーコンセプト

「今日組織と無縁で生きていけない以上、人間が集団になるとどのような振る舞いをするのか深く理解するうえで洞察を与えてくれる」

 個人の特性の足し算が集団ではないとする著者の指摘は、その場の空気でものごとが決まる日本の社会にそのまま当てはまる。組織や社会の振る舞いや、その背後に動いている構造を洞察する重要性と哲学活用のキーコンセプトを著者は説く。

 例えば、働き方改革の先を考えた時に、個人が組織から距離を置いた社会をデュルケームのアノミーを引用し「無連帯」を指摘する。個人は自由になる一方で孤独感に苛まれ、社会は不安定化するという示唆だ。個人の自由が増大する歴史的な流れにおいては、同時に自我と教養の強化が必要になると著者は警鐘を鳴らす。

 本書は個人の哲学活用のノウハウ本である。入り口さえわかりにくかった哲学の世界を大いに俯瞰できるし、その使い方まで教えてくれるだろう。

文=八田智明