不思議な猫のお告げが導く、気づきと再生の物語──『猫のお告げは樹の下で』

文芸・カルチャー

2018/9/14

『猫のお告げは樹の下で』(青山美智子/宝島社)

 そういえば、「人生って思うとおりにはいかないな」と感じ始めたのは、小学4年生くらいのときだった。クラスの友人関係に悩んだことを皮切りに、進路に迷い、叶わなかった恋に泣き、夢をなかば諦め、家族との関係をこじらせて、そのたびに立ち止まりながら、これまでの半生を歩んできたのだ。

 悩みや迷いのトンネルは、いつだって暗くて長い。そこに入り込んでしまったとき、人は誰しも切実に求める。誰かが、この迷路を抜けられるヒントをくれはしないかと。

 そんなミラクルが叶ってしまうのが、『猫のお告げは樹の下で』(青山美智子/宝島社)に収録された、7編の物語の主人公たちだ。

 陸上部だったミハルは、失恋のショックを忘れようとランニングをしている途中、通りかかった神社で一匹の猫に出会う。その猫が、神社にある樹のまわりを回ると、文字の書かれた葉っぱが落ちてきた。宮司さんによると、「ニシムキ」と書かれたその葉っぱは、猫が授けたお告げだとか。

「ニシムキって、どういう意味なんですか」
「ニシムキと書いてあるんですか」
「え? ほら、ここに」
 こんなにはっきり書いてあるのに、宮司さんはどうしてそんなことを聞くのだろう。彼は腕を組んでほほえんだ。
「さあ、どういう意味なんでしょう。お告げは答えそのものではありません。答えにたどりつくよう、案内するだけです」

 それを聞いたミハルは、「西向き」のマンションを買ったばかりの、少し苦手な叔母を訪ねてみようと思い立つのだが……。

 葉っぱのお告げを手に入れるのは、ミハルをはじめ、小さな神社ですれ違う7人だ。思春期を迎えた娘と、うまくつき合えず悩む父親。なりたいものがわからなくて、途方に暮れる大学生。仕事に没頭するあまり、家族をないがしろにしたと悔やむ頑固親父。転校先のクラスに馴染めず、孤立気味の小学4年生。漫画家になりたいという、長年の夢を諦めきれない専業主婦。人の視線に縛られて、思うように動けなくなってしまった占い師。自分と似た悩みを抱える主人公が、きっといる。

 日常に行き詰まり、立ち止まっていた人たちが、猫の授けるありふれた言葉をきっかけに、世界の見方を変えていく。うつむいていた顔を上げ、前を向き、また歩き出す。すがすがしいそのさまを綴るのは、『木曜日にはココアを』(宝島社)でもハートフルなストーリーを描き出した、青山美智子のあたたかな筆だ。登場人物たちと物語の中を歩くうち、視線が少し変わるだけで、世界はこんなにも明るくなるものなのだと、はっとする。

 とはいえ、現実には、お告げをくれる猫なんて現れない──そんなふうに、日常にふてくされている(?)人にこそ本書をすすめたい。筆致はあくまでやわらかながら、読み手を引き込む構成は見事のひと言。最後のページを読み終える瞬間、たとえ絵空事だとしても、物語にはたしかにわたしたちを励ます力があると、手に取るように実感できる。

 彼らの次に、お告げの葉っぱを手にするのは誰なのか? 本を閉じ、目を上げたとき、あなた自身の世界の見方も変わっているに違いない。

文=三田ゆき