「医者はどうして冷たいの?」現役外科医が明かす“医者の本音”

暮らし

公開日:2018/9/4

『医者の本音』(中山祐次郎/SBクリエイティブ)

 白衣をまとい病状や治療の説明をする医者は、患者側から見ると堅苦しかったり、冷たく感じられたりしてしまうもの。だが、“病気に立ち向かうパートナー”になるには、両者の間にある目に見えない溝を埋めていく必要がある。『医者の本音』(中山祐次郎/SBクリエイティブ)は、そんな想いのもとに記された現役外科医師からの告白本だ。

 著者の中山氏は12年間にわたり外科医として1000件以上もの手術を行い、合格率26%という高難易度の手術資格、内視鏡外科技術認定医(大腸)も取得している。その傍ら執筆活動を続け、医療記事の連載も行っている異色の医者だ。

「閉じた医療業界に風穴をあけたい」――そう語る現役医師がつづる“医者の本音”とは、果たしてどんなものなのだろうか。

advertisement

■なぜ医者の態度はいつも冷たいのか?

 自分の体が心配なときは、担当医にすがるような想いを抱くものだが、こうした時に医師にそっけなく冷たい対応をされ、悲しい気持ちになったことがある人は多いのではないだろうか。しかし、中山氏いわく、患者に冷たくしようと思っている医者はほとんどおらず、「どうすれば患者のためになるか」「どうしたらこの国の医療はよくなるか」を真剣に考えている医者が大半なのだそう。

 それなのに、なぜ医者の態度は冷たく感じられてしまうことが多いのだろう。実はそれには、医者の多忙が関係しているという。

 医者は毎日とてもタイトなスケジュールをこなしている。中山氏のような外科医の場合、朝9時には手術室へ向かい、すでに麻酔をかけられている患者に手早く正確な手術を行う。手術時間が長引くと、その分、患者のダメージが大きくなるからだ。こうした状況が、手術前の回診中に患者から質問を投げかけられても、十分に説明する時間が取れず、「冷たい」と思われてしまう一因になっていると中山氏は指摘する。

 また、外来診察では日に何十人もの患者と話すだけでなく、薬の処方やパソコンのデータ入力、カルテの記入、次回の外来予約などを行わなければならないため、非常に多忙だ。さらに、その傍らでは診察を待つ次の患者のファイルが大量に積み上げられていくため、ひとりひとりに十分な時間を割くことは大変難しい。

 患者側の要点としては、うまく意思疎通を図るには、あらかじめ聞きたい内容を箇条書きでメモし、整理しておくとよいのだそう。医者に何を聞きたいか、何を不安に思っているのかを明確にするために、「どんな症状がいつから現れているのか」や「今一番困っていることは」など書いたオリジナルのシートを作成し、持参するのもおすすめだ。医療サービスを受ける上で、医者との信頼関係は欠かせない。だからこそ、患者側も医者の負担をうまく減らせるようなコミュニケーションを意識していく必要があるのだ。

■数ある名医本は信頼できるの?

 書店などでよく見かける名医本やネット上の口コミを参考に、かかりつけの病院や担当医を決めることは多い。しかし、中には信憑性に疑問を抱きたくなるものもあるそうだ。

“3年ほど前のことです。私のもとに一通の封筒が届きました。開けてみると「名医を選ぶ本を作っているので、名医と思う医者を教えてくれないか」というもの。リストには、たくさんの医者の名前がありました。”

 これは中山氏が実際に体験したエピソード。もちろん、全ての書籍で同様ではないだろうが、名医を集めた本の中では組織票が入る可能性もあるのだという。

 さらに、医者のもとには「名医本に名前と病院名を載せないか」という勧誘も来るのだそう。実際に自身のもとにも200万円払えば見開きで掲載できるという話がきたことがあったため、中山氏は名医本の信憑性に疑問を抱いているという。

■ネットの口コミに惑わされず自分の担当医を見つける方法

 ネットの口コミにも意外な落とし穴がある。クリニックの口コミはスタッフの接客態度や院内の雰囲気については詳しく知れるが、治療レベルや説明の丁寧さ、納得がいく治療が受けられるのかという点はあまり記載されていない。病院はレストランとは違って、同じ治療のためにあちこちへ行く人がいないため、比較しての口コミがしづらい。また、専門的な知識が必要な領域であるため、患者が的確に判断することも難しいといえる。

 そのため、口コミを鵜呑みにせず自分に合った病院を選ぶには、次の3つのポイントを意識する必要がある。

1.まずは一度かかってみて、とても変だと感じたらすぐに病院を変える
2.相性が悪いと感じたときも病院を変える
3.基本的には自宅からアクセスのよい病院を選ぶ

 病院を選ぶときに医者の出身大学を参考にする人もいるかもしれないが、個人の力量は出身校で左右されないので、肩書きに惑わされず中身を見極めながら信頼できるパートナーを見つけていきたい。

「ここまで書いて大丈夫?」と読者が驚くほど鋭く医療業界に切り込んでいく本書は、分かりやすい口調で丁寧につづられているのも印象的だ。今まで知らなかった医者の真実に触れることができれば、いつもの担当医を心の底から信用できるようにもなるかもしれない。

文=古川諭香