「内定が決まる」は誤り? 大人のたしなみとして知っておきたい言葉遣い

ビジネス

公開日:2018/9/6

『できる人が使っている大人の語彙力&モノの言い方』(山口拓朗/PHP研究所)

 言葉なんて伝われば何でもいい……。いや、暴論であるのは重々承知しているのだけれども、筆者は時折そう思うことがある。しかし、ビジネスシーンとなると話は別かもしれない。先輩や上司、取引先などとコミュニケーションを図る上で、みんなが理解できるような“最大公約数”的な表現に気を配る必要もある。

 とはいえ、大人のたしなみとしての“正しい言葉遣い”を学ぶのは、なかなか難しい。そんな悩みに応えるべく、日頃の言葉遣いを振り返るのにうってつけの書籍『できる人が使っている大人の語彙力&モノの言い方』(山口拓朗/PHP研究所)の内容を紹介しよう。

◎やたらと使ってしまう? 気になる“させていただく症候群”

 TPOに合わせた言い回しなど、正しい言葉遣いのヒントを与えてくれる本書。会話やメールといったシチュエーションごとの常套句などが、多岐にわたって紹介されている。さらにその中では、よく議論にものぼる“敬語”についての問題にも言及しているが、初めに「させていただく症候群」についてふれてみたい。

advertisement

 誰かに何かの機会を与えてもらったとき、けっこうよく耳にするのが“~させていただく”という表現。例えば、先輩や上司から仕事を割り振られたときに「頑張らせていただきます!」と発してしまう人たちも少なくないだろう。

 筆者の周囲には「違和感がある」という意見を示す人もいたが、じつは、この表現はあながち間違いではないという。ただ、元々が「させてもらう」の謙譲語であるため使うシチュエーションは限られる。一つは「相手の許可が必要なケース」で、もう一つは「自分が恩恵を受けて、相手が不利益を被るケース」だ。

 例えば、相手の許可が必要なケースは「こちらは破棄させていただきます」などの場合で、相手が不利益を被るケースは「返事を保留させていただきます」といった場合。やはり何でもかんでも、過剰に「させていただく」を乱発するのは避けた方がよさそうだ。

◎認められつつあるという“ら抜き表現”

 よく間違いと議論される表現として、いわゆる「ら抜き言葉」もある。例えば、本来は「見られる」と言うところを「見れる」と言ったり、「着られない」と使う場面で「着れない」と言ったりすることに、違和感をおぼえる人も少なくないはずだ。

 しかし、本書では「ら抜き言葉」について「単純に『言葉の乱れ』と言い切れない側面がある」と前向きな見解を示している。じつは、批判されがちなこの「ら抜き言葉」であるが、同じ発音ながら使い方の異なる言葉遣いのまぎらわしさを解消するために生まれたという説もあるそうだ。

 例えば、先ほども取り上げた「見られる」という表現は「見る」の可能表現としてイメージされるが、尊敬表現や受け身表現も同じ発音の言葉になっている。そのため一般的に浸透した今となっては「言葉の乱れ」というよりも、「言葉のゆれ」であり近い将来には「慣用化されているかもしれません」と本書は指摘する。

◎「内定が決まる」に違和感? なるべく避けたい“二重表現”

 気を抜くと使ってしまう、意味が重複した「二重表現」。例えば、「返事を返す」や「受注を受ける」などの表現であるが、この言葉遣いには「“くどい”“稚拙”“読みにくい”“リズムが悪い”など、たくさんのデメリットがあります」と本書は指摘している。

 思わず使うことがないようにするためには、何よりも“気を配っておく”というのがベストな防止策となるが、参考までに本書にある「言い換え例」の一部を以下に紹介しよう。

・誤)全て一任する→正)全て任せる/一任する
・誤)あとで後悔する→正)あとで悔やむ/後悔する
・誤)内定が決まる→正)内定する
・誤)秘密裏のうちに→正)秘密裏に ※裏は「~のうちに」という意味
・誤)連日寒い日が続く→正)連日寒さが続く/寒い日が続く

 本書を読む限り、ポイントとなるのはシンプルに伝えるため、余計な表現を抑えるといったところかもしれない。ただ、使用頻度が高いもの、例えば「従来から」「最後の切り札」「被害を被る」といった表現は許容されつつあるため「違和感を抱かないものについては使用を控える必要はありません」と付け加えている。

 会話やメールなど、言葉の使い方は癖になっているとなかなか見つめ直す機会もない。本書は、日頃から自分たちが無意識に行っている言葉遣いを、改めて考えさせてくれる一冊である。

文=カネコシュウヘイ