華麗なる論理の跳躍がすこぶる魅力的な、レトリックの踊り手

小説・エッセイ

公開日:2012/3/23

七・錯乱の論理・二つの世界

ハード : PC/iPhone/iPad/Android 発売元 : 講談社
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:eBookJapan
著者名:花田清輝 価格:1,026円

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日本の思想界を代表する評論家、吉本隆明が亡くなった。

晩年に出た、漫画に関する論を集成した「全マンガ論」は画期的で、目からウロコがポロポロ落ちて拾うのが大変だったが、一般的には代表作とされるのは「共同幻想論」だろう。ただね、私は「共同幻想論」よりも、「言語にとって美とは何か」ってのがとっても好きなの。すごいと思うわけ。言葉ってのがなぜ美を表すことができるかって謎を、言語の発生のメカニズムから始めて、言葉が持ってる2つのベクトルのバランスが美の表出の正体だってことを、芸術論でなく、科学的な手つきで考えていってしまう。その中に恐るべきことに詩人の閃きもちゃんと込められている有様。名著よ。

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で、花田清輝は、その吉本隆明とどっちを取るかって60年代、70年代の若者たちを迷わせた天才評論家である。お相撲さんではないのね。名前はそれを思わせる傍若無人のキラキラ感に包まれてはいるけれど。

冗談でなくこの方もすごい人で、吉本がしなやかな論理をしかし確かな足取りで進めていくのに対し、花田はロジックのアクロバットを華麗に展開するレトリックの踊り手なのである。博覧強記の脳髄から衒学スレスレの文学的知識を次々と並べ、並べるだけじゃなくてそれらをイメージのつづれ織りでスピーディーに縫い上げて見せることによって、読み手の思考速度を軽々と追い抜きめまいを起こさせるニクい旦那といってよい。

文中に散らばったイメージたちを、突然思いがけない新たなイメージの中に接合させる美しくさえある離れ業は、内容としては少し違っているがその鮮やかさにおいて最も近い今の表現者で言うなら野田秀樹ではないか。

彼の思想に賛同するか否かはさておき、とにかく文章は面白いのでご一読されるとよろしかろう。

あ、忘れてた。本書には小説作品も入っているので、花田の全体像をつかむにももってこいなのである。


一番最後の「動物・鉱物・植物–坂口安吾」というのがものすごい

小説「七」のぼうとう。この文章で花田をはかってはいけない (C)Reimon Hanada 1989