「調教済みのレタス」から影響を受けた映画や音楽まで!『村上春樹語辞典』がすごい!

文芸・カルチャー

2018/9/8

村上春樹語辞典: 村上春樹にまつわる言葉をイラストと豆知識でやれやれと読み解く』(ナカムラ クニオ、道前宏子/誠文堂新光社)

 作品数、実力はもとより、長年にわたり世界中から圧倒的な人気を誇る文学界のスーパースターである村上春樹氏。氏の文学作品には、独特の比喩表現や「ここではない世界」との摩訶不思議な繋がりと、ほろりと切ない恋愛エピソードが絶妙に絡み合い、私たちを全く新しい世界へと導いてくれる。どの著書もベストセラーになっていることから、青春時代をハルキ小説とともに過ごした読者も多いのではないだろうか。

 この『村上春樹語辞典: 村上春樹にまつわる言葉をイラストと豆知識でやれやれと読み解く』(ナカムラ クニオ、道前宏子/誠文堂新光社)は、ハルキストが世界中から訪れる聖地として名高いブックカフェ「6次元」の店主が、春樹への熱い思いをアーティスティックかつユーモラスなイラストで綴ってくれる。

この本は、「村上春樹語辞典」と名乗っているが、文学作品の難しい解読本ではない。村上春樹をまだ読んだことがない方も、長年のファンの方も、楽しめるように工夫をした参考書のような一冊だ。

 と、著者の解説にあるように、特に心構えが必要な難解な本ではないのだ。

 本書は、あいうえお順にハルキワールドと関連する言葉がイラストとともに紹介されていくのだが、氏のさまざまな著作はもちろん、作品中の登場人物の解説、物語に出てくる地名やホテルの名前が綴られていき、ハルキストにとっては、そういえばこういうエピソードもあったよなぁとなんだか懐かしい気分になってくる。あいうえお順に読むのではなく、お気に入りの登場人物や地名を先に見つけてどのように書かれているのかも楽しみだ。

『風の歌を聴け』のなかで象徴的に登場する架空の作家「デレク・ハートフィールド」の項目を見てみると(作中には架空の作家という説明は一切ない)、「発表当時、図書館で問い合わせが増えて困ったらしい」なんて、エピソードも一緒に紹介されていて、ちょっとしたハルキワールドの深みにクスっと笑ってしまうのだ。

 ハルキストだけでなく楽しめる理由が、氏が影響を受けた作家や音楽家、映画なども丁寧に取り上げているところだ。文学や芸術に興味がある人ならば、避けては通れない有名どころが掲載されており、知的好奇心が広がっていく。氏が最も影響を受けたというスコット・フィッツジェラルドやジョージ・オーウェル、ジャズに関する項目も数多くあり、翻訳を手掛けた著作についての記述ももりだくさんだ。また、「調教済みのレタス」「チョコレートと塩せんべい」のように、一見しただけではよくわからないけれど、心をくすぐられるキーワードも魅力的。

 ところどころに食べ物や映画、世界中で発行された著書のデザインについてなど、コラムが挟まれているところも、この本のページを滑らかにめくらせてくれる理由の一つだろう。

「ハルキワールドは気になるけれどなんだか難しそう……」と思っている人でも、軽快なテンポとイラストで読み進められる一冊。

文=長祖久美子

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