「絶食系男子」が出会ったのは…欲望まみれの美人姉妹!? 煩悩まみれな人の悩みを異色のトリオが解決!

文芸・カルチャー

公開日:2018/9/6

『バー極楽』(遠藤彩見/KADOKAWA)

 この世には誘惑が多すぎる。煩悩を捨てるだなんて困難。あらゆるものに惑わされて、悩まされるのが人間のサガだ。そんな人間の煩悩を解消し、悩みを解決していく異色のトリオを描いた作品がある。遠藤彩見氏著『バー極楽』(KADOKAWA)は、無欲の絶食系僧侶と欲深い美人姉妹のヘンテコトリオが人々の悩みを解決していく物語。

 遠藤氏といえば、「給食のおにいさん」シリーズや『キッチン・ブルー』などで知られているが、『バー極楽』も他の作品同様、食をひとつのテーマとしながらも、お寺の日常を描き出した新感覚のお仕事小説だ。本書を手にとってみると、まず、装画の美しさに目を奪われる。担当したのは、『カラーレシピ』や『やたもも』などで知られるBL界の鬼才・はらだ氏。はらだ氏は本作ではじめて文芸書の装画を担当したというが、本書のもつ食と欲にまみれた世界をあざやかに表現している。

 描かれるのは、とある町の寺・安穏寺。6年間の放蕩の果てに実家の寺に出戻った照月は、あらゆる欲を捨て「絶食系男子」に生まれ変わることを決意する。だが、修行を終えて副住職となった彼の目の前に現れたのは、欲望まみれの謎の美人姉妹。派手でセクシーな “女豹”ことフミヨと、清楚だけど肉感的な“菩薩”のテイ子。住職の父親は荒行に出ていて不在でどうしたら良いかわからない。本当に姉妹なのかも怪しい2人が照月の生活を一変させることになる。

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 物語のはじまりからして不穏だ。祈祷、地鎮祭の打ち合わせ、アルバイトで引き受けたお通夜の読経と慌ただしい一日を終えた照月が夜8時、茶室に戻ると、茶室の横の黒い燭台には、小さなプレートがかかっている。「バー 極楽」。照月の父親の許可は得ていると父親直筆の書状を出して、フミヨとテイ子が開店したバーだ。バーにやってくるのは、フミヨとテイ子目当ての客たち。ここは本当にお寺なのか。煩悩まみれの檀信徒や町の人々に辟易。寺での生活を守るため、照月は嫌々トラブル処理に奔走するが…。照月は平穏な生活を取り戻すことができるのだろうか。

 フミヨとテイ子は、一体何者なのだろう。立派な僧侶になるべく修行を終えてきたというのに、照月の悩みは尽きない。だが、フミヨにしろ、テイ子にしろ、観察眼とアイデア力は人一倍。「バー極楽」はこの世の極楽。謎の姉妹は、照月とともに、町の人たちの悩みの根源を見つけ出し、彼らの悩みを解決し、そして、癒していくのだ。

「幸せと食べ物は同じ。複雑な味付けが必要なのは痛んでるってこと」

 食と欲が入り乱れる異色のこの作品は、ときに笑わされ、ときにうるっとすらさせられる。そして、普段知る機会のない寺でのお仕事を垣間見られるのも楽しい。新感覚のお仕事小説を、ぜひあなたも手にとってみてはどうだろうか。あなたの悩みも、もしかしたら「バー極楽」によって癒されるかもしれない。

文=アサトーミナミ