妻の行動のすべてを知っていた夫がとった行動とは? 『ダブル・ファンタジー』村山由佳が描く、衝撃のラスト

文芸・カルチャー

公開日:2018/9/20

『La Vie en Rose ラヴィアンローズ』(村山由佳/集英社)

 漆黒の表紙に咲き誇る大輪の薔薇――その濃厚な芳香に包まれるかのような村山由佳さんの美しく危険な恋愛小説『La Vie en Rose ラヴィアンローズ』(集英社)。薔薇の花が美しさの中に危険な「棘」を隠し持つように、村山さんの小説もただ甘やかなだけではない。刊行から2年、いまだそのラストの衝撃に多くの読者の心が揺れ動く長編サスペンスが、このたび文庫化された。

 薔薇の咲き誇る家で妻思いの優しい夫・道彦と暮らし、人気フラワーアレンジメント教室の講師をつとめる咲季子は、ある日、新しいムック本の打ち合わせで年下のデザイナー・堂本と出会う。世間からは「カリスマ主婦」と羨望の眼差しで見られる咲季子だったが、実は夫から行動を厳しく制限されていて、ことあるごとに「お前はバカだ」「無能だ」と罵倒され、夫の逆鱗に触れないように用心深く過ごすのが日常になっていた。そんな咲季子の生活を見て「まるで『人形の家』だ」と驚く堂本。そして徐々に堂本に心惹かれていく中で、夫のそうした行動が重度の「モラハラ」であったとはじめて気がつき、激しく燃える恋の愉悦の中で檻の外へ羽ばたこうとする咲季子。だが、ある夜、すべてを知っていた夫が「相手に社会的制裁を与える」と激高し……。

 村山作品らしい美しいエロスの背景にあるのは、極度のモラハラ夫と不倫。そうしたショッキングな現実を読者家たちはどう読んだのか。不倫に厳しいご時勢ではあるけれど、目立つのは頭ごなしの否定ではなく、男たちのダメっぷりへの叱責と咲季子への憐憫の情だ。

advertisement

モラハラをする男性っていうのはモラハラを受け入れる女性を選んでいる気がする。咲季子という女性がまさにそう。そして咲季子は堂本という男もろくでなしにしてしまう雰囲気を持っている。咲季子目線なので男性の方を悪く描いているが、これは咲季子が引き寄せてしまっているのでは……?(にか)

モラハラ旦那の道彦が本当にクソ。良いところが全然見つからず、これじゃぁ咲季子が不倫に走っても仕方ないよ、と思ったけれど、その相手もどんどんクソになってきてなんだか咲季子が哀れに思えた。自業自得と言ってしまえばそれまでだけど、男運の悪い人って本当にいるんだろうな。(亜希)

主人公の夫のモラハラぶりは極端な姿でしょう。しかし多くの男性は女を格下に捉えて、愛しい、守っていると言いながら支配する事に自分の存在価値を認め、それがあたかも愛情だと思っている現実も否めない。咲季子を含む多くの女も、そうされる事が愛されている証だと信じて自分を誤魔化し生きている。その欺瞞に気付いた時に出逢った堂本の誘惑を、愛情だと思いたかったのは無理もないけれど、支払った代償はあまりにも大きく哀しい。(KEI)

旦那が最低だから不倫といっても背徳感が薄めかと思ったけれど、不倫相手も酷くてとても重い読了感。薔薇色の人生。それはとても甘美なものであるが、簡単に人生を狂わせてしまうのである。歌詞の通り、決して叶わぬものと羨望するのが丁度良いのかもしれない。(雪風のねこ@(=´ω`=))

支配と抑圧から解放されて、少しだけ自由が欲しかっただけなのに。彼女はどこか危うさを持ち合わせていた。「自分」というものを持たないと、結局は相手に翻弄されてしまう。目を覚まして欲しいと思いながら読み進めた。(Mijas)

 興味深いのは、途中までは「モラハラダメ夫→不倫→不倫の代償」という予想通りの展開だが、最後に迎える衝撃的な結末には「その先が読みたかった」「一気に読んだ」「モヤモヤが残った」と読者の意見が分かれる点。それだけ心の奥にひっかかるものがある証でもある。

 かつて作者は「私にとって過去の自分との訣別の書」と語り「新境地」とも称される本作だが、そうした手応えも確実に読者に届いているようだ。痛々しく堕ちていくかのような咲季子の人生は果たして「薔薇色」なのか、あなた自身の心でも確かめてみてほしい。

これまで読んできた著者の作品にはない文章のキレが印象的。モラハラ夫が登場してきた時点で、「これは新たな恋人ができて…」という展開までは予想できるのだけれど、その後の顛末は想定外。著者は新たなステージに上がったのかも?(amanon)

文=荒井理恵

(※引用コメントは、トリスタが運営する「読書メーター」ユーザ投稿より)