中原中也の肉声が聞こえてくる「名言集」
更新日:2012/3/28
「中也の特集や研究書は数多く出版されていますが、その「肉声」に焦点を絞った本はありません。本書では(中略)友人や恋人、家族などに語った言葉を集めました」と本書冒頭に記されている。
話題になった「ニーチェの言葉」をはじめ、作家、哲学者、思想家の名言集は数多く出版されている。本書は、詩人中原中也(1907~1937)の詩作品からの抜粋ではなく、手紙や日記、友人たちの記録などから丹念に拾った中也の「肉声集」だ。全体の構成は、友人、恋人、幼少、芸術、文也、生活、母親に関係する名言、そして名詞十選、中也年表と続く。
そこには名言もあれば迷言、謎言もある。もしひとつだけ勝手に名言を選べば、「友人の章」にある「何だ、おめえは。秋鯖が空に浮かんだような顔をしやがって」。「秋鯖が空に浮かんだような顔」とは誰? その解説に、「太宰治との初対面のとき、中也はこう言って、激しくからんだ」と書かれている。「秋鯖が空」は太宰だった。
本書の名言は、上記のように名言と対応する解説、エピソードが対になっている。両者の相乗でときに中也の声が直に聞こえてくるようだ。しかし、このような「肉声」のあとに、最後の章「名詞十選」で「汚れつちまつた悲しみに…」や「生ひ立ちの歌」などの名詩を読むと、やっぱり中原中也の名言は詩のなかにあると思えてくる。これから中也を読む人には彼の声が聞こえる、読んだことがある人には、中也と改めて出会い直せる1冊です。
中也を語るときに忘れることのできない友人のひとり、富永太郎へ
「あなたの体が大事だ」の解説。富永太郎は詩人、また画家でもあった
生意気、傍若無人、そして繊細、気弱な、いかにも中也らしい言葉
「その女」をはさんで中也と小林秀雄の三角関係はあまりに有名
「名詞十選」の章扉
代表的な詩のひとつ、「汚れつちまつた悲しみに…」