さあ、After the Rainの「エピソード1」へ――After the Rain『イザナワレトラベラー』レビュー

エンタメ

2018/9/12

 2年5ヶ月ぶりのAfter the Rainのアルバム。楽しみに待っていた人も多いだろう。その2年5ヶ月という「時間」が、はたして長かったのか短かったのか。それは受け取る人によっても違うだろうし、After the Rainのふたり、そらるとまふまふにとっても、簡単に答えられる問いではないかもしれない。だがひとつだけいえることは、それだけの時間がこの『イザナワレトラベラー』というアルバムが産み落とされるには必要だったし、それだけ濃密な時間を彼らは過ごしてきたということだ。

 After the Rainとして始動してからの最初のアルバム『クロクレストストーリー』のあと、そらるとまふまふのふたりは、一方でそれぞれに精力的にソロ活動をしながら、主にライブパフォーマンスの面で、ユニットとしてとんでもない活躍を見せてきた。2016年7月の両国国技館2デイズ、2017年8月の日本武道館2デイズ、そして記憶に新しい、今年8月7日・8日のさいたまスーパーアリーナ公演。合間にウィンターツアーとカウントダウンパーティーもあった。どのライブでもたくさんのファンが参加し、ふたりの歌声に大歓声を送ってきた。

『イザナワレトラベラー』を聴いて強く感じるのは、そんな活動の時期を経て、After the Rainがひとつの生き物のように呼吸し、生きている姿だ。そしてそれこそが、このアルバムが作られた意味、After the RainがAfter the Rainとして存在する意味なのではないだろうか。2年5ヶ月という時間をかけて、After the Rainはついに、ほかの誰のものでもない物語を描き始めたのだ。

『クロクレストストーリー』の最後を飾る“アイスリープウェル”でまふまふは、

 ねえ こんなに歌っても
 まだ心に意味を見いだせない
 大切にしてきたものほど
 この世界じゃ壊れていく

という歌詞を書いた。暗いものも明るいものも含めて、RPGのようなファンタジーの世界を描いていた『クロクレストストーリー』は、しかしだからこそその隙間からまふまふというアーティストの心の中を覗かせていたともいえる。痛くて辛い「現実」と、それと戦うための武器としてのファンタジー。“アイスリープウェル”という歌の主人公は最終的に《覚めない夢に落ちていく》ことを選ぶ。それがつまり、あの曲が生まれた時点でのAfter the Rainとしてのひとつの「答え」だった。

 しかし『イザナワレトラベラー』は違う。力強いビートが耳に残るオープニングナンバー“解読不能”で《どうして届きもしないのに/声を出せてしまうのだろう》と戸惑いながらも《解読不能が頬を伝うの/放っておいて ねえ》と制御できない感情をむき出しにし、“メリーバッドエンド”と“ハローディストピア”でユートピアであるはずだったネット空間に宣戦布告をし、“快晴のバスに乗る”では《こんな人生だって/もう散々だって/ボロボロで背負ってきたんだ》と自らの歩んできた道をしっかりと見据える……そしてアルバムの最後、ふたりのハーモニーも美しい“彷徨う僕らの世界紀行”ではこう歌われるのだ。

 ふりだしに戻ろう
 傘は捨てよう ひび割れて愛を謳ってしまうなら

 この曲はラブソングのようにも読めるが、ここで歌われる《本当は泣き虫で不器用な誰かと/気弱で孤独な誰かの噺》が、After the Rainというユニットのはじまりの景色を描いているように思えるのは、安直な連想だろうか。

 たとえば、美しいメロディでそらるの切ない歌声を最大限に引き出した“千里の夢と繭”や“箱庭鏡”。日本的な情緒を感じさせる世界観の中でふたりのボーカルの重なりを堪能できる“四季折々に揺蕩いて”や“妖のマーチ”。ポップな“マリンスノーの花束”や“絶対よい子のエトセトラ”ではまふまふの声のキャラクターがファンタジックな彩りを添える。こうしてアルバムを通して聴くと、前作以上にふたりの歌の個性が強調され、同時にそのバランスが絶妙に調和していることがよくわかる。ライブの場での彼らがそうであるように、今作でのふたりのボーカルはまるで支え合い、溶け合うように、1枚のアルバムの中で共鳴しているのだ。これはそらるとまふまふというふたりのクリエイターの合作ではない。After the Rainという、たったひとつの共同体による全力の存在証明なのだと思う。

 雨の上がったあとの世界を、After the Rainは力強く歩き出す。その手にもう傘はいらない。そんな自分たちを、彼らは『イザナワレトラベラー』と呼んだ。では「誰」が彼らを「いざなう」のか。それはもちろん、彼らの存在を認め、受け入れ、励まし続けてきたあなたたちひとりひとりだ。

文=小川智宏

【MV】四季折々に揺蕩いて/After the Rain(そらる×まふまふ)

【MV】マリンスノーの花束を/After the Rain【そらる×まふまふ】

【アトム ザ・ビギニングOP】 解読不能/After the Rain[そらる×まふまふ]

【クロックワーク・プラネットED】アンチクロックワイズ/After the Rain【そらる×まふまふ】