裏と表、2作同時リリースで見えたもの――After the Rain『解読不能』『アンチクロックワイズ』レビュー

アニメ

更新日:2018/9/14

 2016年の『クロクレストストーリー』から1年の時を経て、またしても彼らはファンを驚かせた。初のシングルはなんと2作同時リリース。いずれの表題曲も当時放送中だったアニメの主題歌だ。鉄腕アトムの誕生秘話を描いた『アトム ザ・ビギニング』のオープニングテーマ『解読不能』と、歯車によって再構築された地球が舞台のファンタジー『クロックワーク・プラネット』のエンディングテーマ、『アンチクロックワイズ』。シングルとはいえそれぞれ4曲を収録しているから、合わせて8曲、アルバムに相当するボリュームである。

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 このシングルリリースに至るまでのあいだに、After the Rainは初のワンマンライブである2016年7月の両国国技館2デイズ「After the Rain 両国国技館 2016 〜モーニンググロウ アフターグロウ〜」で合計1万2000人を動員し、同年12月には全国5か所を回るツアー「After the Rain TOUR 2016 -WINTER GARDEN-」を敢行。そらるの体調不良によって最終日となる12月31日のTOKYO DOME CITY HALL公演が年明けに延期となるというアクシデントもあったが、まさに1年をかけてそらるとまふまふのふたりはAfter the Rainとしてファンの前でその全貌を見せつけてきたことになる。

 その先で提示された新たな楽曲たちは、同時リリースということも相まってか、まるでAfter the Rainというユニットの両極端な本質を覗かせる好対照な2枚のシングルとなった。表題曲“解読不能”をはじめ“負け犬ドライブ”“傾国”“わすれられんぼ”とハードなギターサウンドが軸となった攻撃的なロックナンバーが並ぶ『解読不能』と、アニメのコンセプトに寄り添いながら運命に抗う反骨心を示した“アンチクロックワイズ”をはじめ“最適な人の殺め方”“脱落人生へようこそ”“彗星列車のベルが鳴る”と振れ幅の大きな曲調の中でナイーヴな内面を吐き出す『アンチクロックワイズ』。聞こえてくる歌声こそまぎれもなくそらるとまふまふのものだが、曲の印象でいえば、別のプロジェクトといっていいほどに分裂しているといってもいい。もちろん、そのふたつの側面は初めからAfter the Rainというユニットの中にあったものだ。『クロクレストストーリー』でも、たとえば“ベルセルク”という曲と“さえずり”という曲のあいだに感じる落差のような形で、そのコントラストは存在していた。それがこうして分離されることでより強調され、はっきりと伝わるようになっている。

 しかしその一方で、この2作のシングルを聴いていると、そこに共通して流れる「思い」のようなものがあることにも気づく。それはあえて言葉にするならば「届かぬものへの渇望」「行き場のない愛」とでもいうようなものだろうか。かたや怒りやいらだちとして、かたや憧れや失意として、まるで方向の違う2本の矢印は、ぐるりと回って同じ感情を指しているように思えるのだ。“負け犬ドライブ”の《吠えろ 吠えろ 負け犬よ》というフレーズと“最適な人の殺め方”の《愛してよ ねえ愛してよ》というフレーズ、“解読不能”の《教えて 貴方は誰なの ねえ》というフレーズと“アンチクロックワイズ”の《何も求めないから 何も求めないでよ》というフレーズは、実は同じことを言っているのではないだろうか。

 ふたつの曲が主題歌となった『アトム ザ・ビギニング』と『クロックワーク・プラネット』というアニメは、舞台設定も背景も違うふたつの作品だが、両者に共通していたのは、最後の最後に残されたものが、まぎれもなく未来への希望の種だったということだ。大きな物語に翻弄されながら確かに顔を覗かせた未来。それはこのシングルたちがリリースされたときのAfter the Rainが立っていた場所とも重なる。ユニットとして活躍の場を広げながら、戸惑いや苦悩の中で見えたものが、この両作には詰まっている。2作同時にオリコンウィークリーチャートのトップ5にランクイン。After the Rainの冒険は、確かに次の章へと歩みを進めていく。

文=小川智宏