懲戒処分の適切なラインはどこ? 組織をマネジメントするために知っておきたいこと

ビジネス

2018/9/12

『中小企業は『懲戒処分』を使いこなしなさい』(安中繁、竹村淳/労働新聞社)

 多くの人は「懲戒処分」という単語を耳にすれば、あまり良いイメージを抱かないだろう。他人や社会を害するような行為をしたり、職権を濫用したりした人が懲戒処分を受けたというニュースを耳にしてきた人も多いはずだ。しかし、本来の懲戒処分は企業体が成長するために欠かせないものでもある。

『中小企業は『懲戒処分』を使いこなしなさい』(安中繁、竹村淳/労働新聞社)では、懲戒処分をしっかり扱うことが、企業内のトラブルを回避したり問題を適切に解決したりする秘訣になるという。懲戒処分は、どんな企業でも行うことができるが、そのためには条件もある。大前提として、「懲戒処分に関する規定を周知してあること」が必要だ。つまり、あらかじめルールを定めておき、従業員がきちんと知っている状況でなければ懲戒はできない。「あらかじめ懲戒処分が必要になることを前提にしたルール作り」が欠かせないのだ。ところが、ベンチャー企業の創業者のなかには、「大切な仲間を懲戒処分にすることなんてない」と胸を張って言い切る人もいる。たしかに小さな企業であれば、従業員は社長の信頼する人ばかりで、監視の目も行き届いている場合があるだろう。だが、企業の規模が大きくなれば見知らぬ新人が入り、社長自らの目が届かない現場も出てくる。だからこそ、懲戒処分を含めた規則は、企業の成長には必須なのである。

 本書では、懲戒処分に関する基本的な知識から、実際の相談例を用いた具体的な問題についても詳しく解説している。たとえば、「セクハラを受けた社員が証拠としてスマホアプリによる録音データを提出した」という事例では、セクハラをしたとされた社員が無断録音に証拠能力はないと訴えたという。刑事裁判などでは「反社会的な手段を用いて得た証拠には証拠能力はない」と判断される場合があるが、懲戒処分にも同じような条件が適用されると考えていいというのだ。ただし、スマホアプリによる証拠提出は録音以外にも、チャットアプリやSNSアプリの画像データが用いられることも多くなっており、無断録音であっても証拠として認めても問題ない可能性が高いという。

「社長命令即実行」の横断幕が掲げられ、違反すれば懲戒処分になる事例などもあげられている。この場合、「社長の命令」とは企業秩序維持に関するものだけだと解釈されるのが妥当であり、それ以外のものに違反したからといって懲戒処分にすることはできないという。もちろん、合理的な理由がある命令であれば社則に従って即座に実行する必要はあるし、何を置いても優先するべきだろう。社長こそ、企業活動の責任を負うべき人だから、企業の存続や秩序を守るための命令に反すれば懲戒処分も妥当である。しかし、それらに該当しない命令なら違反しても懲戒処分にする理由にならない。ルールさえ作れば、どんなことでも懲戒処分の理由にできるわけではないのである。

 企業における懲戒処分はとても有用なものだが、むやみに濫用することにも問題がある。だからこそ、正しい知識や適切な運用方法を知っておくことが肝要だ。企業が大きくなれば、社長を含めた使用者、管理者側の目が届かない場面は必ず生まれる。そうしたところで問題は起こり、しっかりとした対処ができなければ、企業全体の危機につながることさえあるのだ。本書には、懲戒処分を含めた社内ルールに関する情報と、懲戒処分を実際に活用する際の注意点などが具体的な事例とともに記載されている。「こういう場合はどうすればいい?」という悩みを解消するとともに、これから起こるかもしれないトラブルについて学べる1冊だ。企業の経営に関わる人はもちろん、直接従業員と関わる管理職も、また懲戒の対象になるかもしれない従業員にとっても一読するべき本だろう。

文=方山敏彦