海野つなみ氏が漫画の原作に初挑戦! ひうらさとる、おかざき真里ら人気作家10人が描く、「世界の終末」

マンガ

更新日:2018/9/25

『その日世界は終わる』(講談社)

『逃げるは恥だが役に立つ』で一躍大ヒットを記録した海野つなみが、最新作『その日世界は終わる』で、初の原作を務めた。テーマは「世界の終末」で、10個の物語を作り上げた。

 参加している漫画家は、栗原まもる、ひうらさとる、飛鳥あると、樋口橘、小原 愼司、上田倫子、TONO、なかはら・ももた、おかざき真里、柘植文、と豪華な10名。それぞれの作家からのリクエストで海野つなみが原作を考えることもあれば、お任せされて漫画家のテイストにあったストーリーを考えることもある。

 10パターンの「世界の終わり」の物語は、「本当に一人の作家から全てのアイデアが生まれたのか?」と不思議に思うほどに、舞台もキャラクターもテイストも多様で、毎回作画が違う分、より新鮮な気持ちで毎話楽しむことができる。

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 現在『ホタルノヒカリ BABY』を連載中のひうらさとるが描く、第2話「Fly me to the moon」は、隕石の落下により世界の終わりが予測される中、被害が最小限にとどまるとされる月に宇宙飛行士が飛び立ち、植物の種子や動物のフリーズドライされた受精卵などを月に送る「ノア計画」を描いた物語である。

 ノア計画の参加を命じられた、ミーシャとターニャは夫婦の宇宙飛行士だ。夫婦で選ばれたということは、月基地で子作りをしろということだろうか、と妻は推察する。しかし、月の重力は地球の6分の1で、あまり激しく体を動かすセックスは大変そうである。そこで妻は、ポリネシアンセックスを提案し、その夜二人で簡易版を試してみることにするのだ……。


 世界の終わりが近づいているとは思えないほど、ほのぼのとした、ちょっとバカバカしいくらいにコミカルな回である。

 そんなエッチで笑える物語もあれば、一転、しみじみと切なさを感じるものもある。TONOが描く第7話「老嬢の一日」は、世界の最後の日に76歳の誕生日を迎えた老婆の物語だ。世界が終わるとわかり、誰も働かなくなり、ライフラインも停止。しかしかつて教師をしていた老婆は昔の教え子たちなどを公民館に集め、一緒に助け合いながら、穏やかな食事を楽しむ。まるで世界の終わりを感じさせない静けさ。しかし、一歩外に出れば、終わりによる狂気は身近に迫っていた。

 当作品には、ポリネシアンセックスに耽る夫婦もいれば、老婆の愛おしくも切ない一日もあり、最後だからこそ嘘偽りない本当の愛を誓うことができた身分違いの男女もいる。世界、そして自分の人生の終わりが迫る彼ら彼女らたちの一分一秒は、どれも濃密で、正直で、かけがえのない時間だ。

 どの物語も粒ぞろいで、きっと必ずひとつは心に深く突き刺さる回があるのではないか。特に第9話のおかざき真里が描く「村で一番の美女」は、おかざき真里本人が「ネームを読んだとき泣きました 100ページくらい描きたいおはなしでした」というほどに、たった一話の中にたくさんの感情が詰まった物語である。短い話ながらも、人間の愚かさと気高さ、たくましさなど、様々な面を感じることができる。


 そして、続く第10話がまた全く違ったテイストでいい。海野つなみの「これを描けるのは柘植文先生しかいない」という、たっての希望で頼み込んで描かれたものだ。『野田ともうします。』や『幸子、生きてます』などシュールなギャグの名手・柘植文が描く「さよなら人類」は、ドラマチックで激動の物語が続いてきたシリーズの後味をまた絶妙なものにしている。

 第1話から第10話まで一気に読むと、一筋縄ではいかないストーリーテラー・海野つなみの凄まじさがより伝わってくるように感じる。世界の終焉というテーマではあるが、そこには単なるお涙頂戴の物語ではない、もっと一人一人の多彩な感情を照らした人間ドラマがある。

文=園田菜々