イラクの戦地で平和を願う兵士たち。「自衛隊イラク日報」が思わぬ反響で書籍化

社会

2018/9/19

『自衛隊イラク日報 バグダッド・バスラの295日間』(志葉玲:監修、武田砂鉄:その他/柏書房)

 今年の4月16日、これまで防衛省が「存在しない」としてきた自衛隊イラク派遣の日報を公開した。国会ではイラク特措法で禁じられている「戦闘行為」があったのではと野党から批判を浴びたが、読んだ人々からは「エッセイのようで面白い」とSNSやメディアで話題になった。

 そのイラク日報が、このたび『自衛隊イラク日報 バグダッド・バスラの295日間』(志葉玲:監修、武田砂鉄:その他/柏書房)として書籍化された。

 当時、自衛隊はイラク南部の都市サマワに滞在した。イラク日報と呼ばれているのは、首都バグダッド、南部の港街バスラに駐在した連絡将校(LO)が、現地の生活の雑感を綴ったバグダッド日報、バスラ日報のことだ。日報からは戦場とは思えないほのぼのとした軍人たちの交流が描かれている。

 現地のコアリッション(多国籍軍)事務所に連絡員として駐在している他国LOには親日家が多い。日報では、個人名は黒塗りにされて不明だが、頻繁に登場する人物がモンゴル軍の大佐だ。このモンゴル大佐は、かなりの大相撲ファンらしい。

昨日の大相撲結果をインターネットで検索していたモンゴルLOが、「まだネットに結果が出ていない。お前なら知っているだろう?」と私に聞きに来た。結果を伝えるとモンゴルLOは喜び、話を聞いていたブルガリアLOは不機嫌になった。(2005年9月26日)

 2005年の秋場所では、モンゴル出身の朝青龍が優勝。最後まで優勝を争っていたのがブルガリア出身の琴欧洲だった。このように毎回話のオチまでついているのが笑いを誘う。

 もうひとり、とくに親日家なのが事務所の副部長の米軍大佐だ。

大佐はなんでも日本製品が一番いいという。ボート、車、時計と日本製品を使っているらしい。中でも、大佐のご自慢はセイコーの腕時計で、15年間使っていて、一度も修理をしたことがないらしい。(中略)「お前の腕時計を見せろ」と急に言われた。断ってもしつこく言ってくる。渋々出した私の腕時計は1980円の安物のデジタル時計。(2005年11月14日)

 その他の軍人たちも国民性がよく表れている。米軍人はアメフトの「スーパーボール」期間中は試合の話題で仕事にならず、独立記念日には大騒ぎして英軍人に冷ややかな目で見られている。イタリア人が手ずから料理するときはパスタで、オーストラリア人ならバーベキューだ。英軍人は普段はツンとしているが、ティータイムには必ず同僚の分も用意してくれるなど、それぞれキャラクターが読み取れる。

 一方、日本人たちはというと、面倒で誰もやりたがらない情報分析リーダーを二つ返事で引き受けたり、日本語を学びたい有志に嘆願されて勤務外で日本語講座を開催したり、部隊からはぐれてしまった兵士を車でヘリポートまで送ってやったりと、他人から頼まれると「ノー」と言えないお人好しぶりがうかがえる。

 楽しいだけでなく厳しい現実もある。派遣期間中、自衛隊に犠牲者は一名も出なかったが、米軍キャンプ周辺では反政府組織によるロケット弾や迫撃砲が頻繁に着弾し、戦死した米軍人の葬儀を見送った記述が何度も出てくる。

 ある日の日報で、米軍人は写真好きで、ことあるごとに記念撮影をするという話がある。いま隣にいる仲間が明日には亡くなっているかもしれない。あるいは死ぬのは自分かもしれない。写真を撮るのは、もし誰かが死んでも写真の中でその姿を残しておきたいという思いからかもしれない。

 私たち一般人は、遠い戦場でどんな人が、どんな思いで、どんな仕事をしているのか、なかなか知る機会がない。憲法改正の是非が問われている今だからこそ、本書をもとに自衛隊のあり方や国際貢献について考えてみてはいかがだろうか。

文=愛咲優詩