『ビブリア古書堂の事件手帖』の“その後” 母としての眼差しが光る栞子の変化

文芸・カルチャー

公開日:2018/9/22

『ビブリア古書堂の事件手帖 ~扉子と不思議な客人たち~』(三上延/KADOKAWA)

 鎌倉の片隅にひっそりと佇むビブリア古書堂の美しき店主・篠川栞子が、古書にまつわる謎を解き明かしていく「ビブリア古書堂の事件手帖」シリーズ。昨年刊行された第7巻で本編は完結したが、「その後」を描く新刊が発売される。

 第1巻の副題〈栞子さんと奇妙な客人たち〉をもじってつけられた副題が表すように、今作の主人公は扉子。栞子と大輔の間に生まれた、6歳になる女の子だ。

 母親そっくりの扉子は本好きの性質も受け継いで、いつでもどこでも本と一緒。他の子供と遊んだり、友だちをつくったりといったことに全く関心を示さない娘を、栞子はひそかに案じている。

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 この子も本を通じてなら、人と関わることに興味を持ってくれるかもしれない――。

 そう考えた栞子は、本にまつわる4組の客人の話を娘に語って聞かせる。

 本編のレギュラーだった坂口昌志としのぶ夫妻のその後と、坂口のミステリアスな過去が明かされる第1章。急死した人気イラストレーターが遺した“母親との思い出の本”を栞子さんと大輔が捜す第2章。やはりレギュラーの志田と、その“愛弟子”小菅奈緒の師弟関係の行方を描いた第3章。第7巻に登場した強烈なヒール、吉原喜市の息子が、父のリベンジとしてビブリア古書堂にやってくる第4章。

 おなじみのキャラクター陣をはじめとして、意外な仇敵や新たなゲストが登場。語り口も、本編が基本的には大輔視点であったのに対して、今作では章ごとの“主人公”の視点となっているのが新鮮だ。とりわけ犯人視点で展開される倒叙ミステリーの第4章は、探偵役としての栞子さんの容赦のなさがひしひしと迫ってくる。

 ビブリアシリーズといえば、作中で取り上げられている本も毎回注目を集めている。今回のラインナップは以下の通りだ。

 北原白秋の童謡『からたちの花』(第1章)。雑誌『BEEP! メガドライブ』『マル勝PCエンジン』、伏見つかさ『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』、さらに某人気ゲームの関連書籍【※ネタバレになるのでご自身の目でお確かめください!】(第2章)。佐々木丸美『雪の断章』(第3章)。内田百閒『王様の背中』(第4章)。

 作者曰く「本編の雰囲気にはそぐわないから泣く泣く断念したネタも盛り込むことができた」とのこと。特に第2章は本編とは一味も二味もちがうセレクトで、栞子さんのゲーム雑誌とライトノベルに関する知識と所感が遺憾なく盛り込まれている点が興味深い。

 そして本シリーズのファンにとっては、栞子が母親の眼差しになっていることに、驚きと感動を覚えるだろう。

 自分によく似た娘に愛情を注ぎながらも、よく似ているがゆえに心配する。同時に自らの母・智恵子との関係を見つめ直している。自分が親になったことで、親を見つめる目も変わった。本編が語り手・大輔の成長物語でもあったように、今作では親になったことで成長した栞子の変化を描いている。

文=皆川ちか