数々の大災害の被災者を追跡調査している著者の力作

公開日:2012/3/27

漂流する被災者  真の「復興」とは何か?

ハード : PC/iPhone/iPad/WindowsPhone/Android 発売元 : 河出書房新社
ジャンル:ビジネス・社会・経済 購入元:eBookJapan
著者名:山中茂樹 価格:864円

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災害復興制度研究所に勤める著者は、昨年の東日本大震災の前からすでに「復興」の仕方についての研究においてはエキスパート。三宅島噴火の際の全島民の非難や、阪神大震災の際の避難者の追跡調査を入念に行ってきた人だ。それゆえ、彼の投げかける疑問や問題提起、「復興」をいかにとらえ、いかに進めるかという議論については、どこかの政治家のようには机上の空論にならず、深く、詳しく、重い。

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実体験と被災者の最も望む形の復興を目指すのが著者の意識するところだが、要約しようにも、要約しきれないほどの問題提起が本書ではなされている。私のような素人には「漂流被災民」という言葉すらショッキングで、いかに現実を知らないか、知ろうとしていないかを痛感させられる1冊になった。

大震災で自宅が全壊して、住むところがなくなったらどうするか? 例えば、避難所に避難し、うまく地元近くの仮設住宅に入れればそれは幸運な人たちだ。親戚や、知り合い、もしくはまるきり頼るところもなく被災地外に出た人たちは、コミュニティの核となる自治体とも連絡が絶たれ、地元で何が起こっているのか把握できないケースも多いという。そうして支援情報も届かず、日々の生活に精一杯の被災者。「戻りたくても戻れない」という状況の中、仮住まいを追い出されたり、高齢で身寄りもないからと賃貸すら渋られるケースもあり、被災だけならまだしも、「漂流」を余儀なくされる。

未曾有の大災害から1年。まさに今、自治体は、いかに地域の暮らしを元に戻すか、人的にも経済的にも未経験の大事業を前にしている。永田町の政治家たちや学者・識者はこれを機に「新しい未来の社会をつくっていく、創造する、そういう復興」「人と自然にやさしい福祉とエコのまちづくり」などと言うが、著者は「理想的な街づくりよりも、まずは生活を取り戻すことを」と歯に衣着せない。一時避難した人の名簿すらすべてはそろわず、実態把握の難しさが浮き彫りになっている。

人がいなければ、町はできない。その復興には、遠くの人間が理想論を語るのではなく、「住んでいた人が戻れて、生活できる」ことが大前提だ。原発や次の巨大地震の恐怖を煽るような書籍も多く出版されるなか、こうした真摯な研究書が多くの人に読まれることを祈ってやまない。


雄山噴火の際に、全島民避難を強いられた三宅島。電脳三宅島の構想は、IT先進国の日本ならでは

同じく三宅島のケース。ファックスを一世帯に一台でなくわざと十数世帯に一台配給。そこで生まれる「ふれあい」は示唆に富んでいる作戦だ

著者にとって「復興」とは理想的な街づくりではなく、まずは生活を取り戻すこと。多くの被災者を代弁しているのでは

被災者を追跡調査してきた人ならではの実体験に基づく批判は明確で、歯切れよい (C)山中茂樹/河出書房新社